柘植史子の句

February 0322015

 エンドロール膝の外套照らし出す

                           柘植史子

画の本編が終わり、キャストやスタッフの名が延々と流れるエンドロール。これが出た途端、席を立つせっかちな人もいるようだが、おおかたは映画の余韻に身を置きながら、日常へと戻っていく「次の間」のような時間を過ごす。少し明るくなった館内で丁寧に折りたたまれた外套に目を落としたとき、彼女は普段を取り戻す。そのあたりに浮遊したままの気持ちをかき集め、外套に押し込めるようにして席を立つ。それはほんの少し残念なような、それともほっとするような、映画を見終わったあとの独特の気分である。それにしても、最近のエンドロールは凝っていて、日常への入口にならない場合も多い。第60回角川俳句賞受賞。受賞作50句には〈受付の私語をさまよふ熱帯魚〉〈蜜豆や話す前から笑ひをる〉など。「俳句」(2014年11月号)所載。(土肥あき子)




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