鶴岡加苗の句

October 14102014

 小鳥来るひとさじからの離乳食

                           鶴岡加苗

間暇かけて作った離乳食がまったく無駄になってしまったという嘆きは多い。ミルクだけを飲んできた小さな口には、味覚以前にスプーンの材質まで気にさわるものらしい。いかに気に入らなくても、言葉にできぬもどかしさに身をよじる赤ちゃんサイドと、せっかくの力作を無駄にしたくない母心が入り乱れ、ときには絶望に声を荒げてしまうこともあるだろう。しかし、その小さな口がひとさじを受け入れてくれてたとき、母の苦労はむくわれる。今日のひと口が明日のふた口に続くかどうかは赤ちゃん次第。乳児から幼児へと変身する時間はゆっくりと流れる。小さな翼を揃えて渡ってくる鳥たちを思いながら、母は子へひとさじずつスプーンを運ぶ。母と子の蜜月の日々がおだやかに過ぎてゆく。〈さへづりや寝かせて量る赤ん坊〉〈子育ての一日長し天の川〉『青鳥』(2014)所収。(土肥あき子)




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