October 022014
台風のたたたと来ればよいものを
大角真代
太平洋上に台風が発生したようで今後の進路が気になる。秋に来る台風は夏の台風と違い偏西風の影響で足早に過ぎ去るという。来てほしくはないのだけど、飛行機で遠方に出かける予定があるときなど気が揉める。台風の進路にあたるときは、ベランダに並べた植木鉢を片付けたり、壊れそうな箇所を補強したりとやっておかなければならない作業も多い。台風による甚大な被害を思えば、どこにも上陸しないで通り過ぎてくれることが一番なのだけど、避けられないなら「たたた」と来て「たたた」と去ってほしいと、天気図を眺めながら思っているのだろう。『手紙』(2009)所収。(三宅やよい)
October 012014
里芋の煮つころがしは箸で刺す
大崎紀夫
私たちがふだん「里芋」と呼んでいる芋にも種類があって、ツルノコイモとかハタケイモをはじめ、品種が多いようだ。山形県ではじまった、この時季の「芋煮会」なるものはどこでも行われるようになってきた。里芋にはいろいろなレシピがあるわけだが、素朴な「煮っころがし」が最もポピュラーで、好まれていると言っていい。丸くてぬめりがあるから、お行儀よく箸でつまむよりは、手っとり早く箸で刺したほうが確実にとらえて口に運べる。掲出句はお行儀よく構えることをせず、そのことを詠んだもの。「本膳」という落語がある。庄屋に招かれた村人たちが、あらかじめ手習いの師匠から「本膳での食べ方は私の真似をするように」と教わって出かける。席で師匠が里芋の煮っころがしをうっかりとりそこなって転がすと、村人がいっせいに箸で里芋をつついてそれを転がすという、にぎやかなお笑いの場面がある。ついでに、落語家の間では「ライスカレーは匙で食う」という、当たり前すぎて笑える言い方がある。釣師でもある紀夫には「ぎぎ釣るやぎぎぎぐぎぐぎぐうと泣く」という妙句がある。『俵ぐみ』(2014)所収。(八木忠栄)
September 302014
間取図のコピーのコピー小鳥来る
岡田由季
引越先の部屋の間取りを見ながら、新しい生活をあれこれと想像するのは楽しいものだ。しかし、作者の手元にあるのはコピーをコピーしたらしきもの。その部分的にかすれた線や、読みにくい書き込みは、真新しい生活にふさわしくない。しかし、作者は大空を繰り返し渡ってくる小鳥の姿を取り合わせることで、そこに繰り返された時間を愛おしむ気持ちを込めた。引越しによって、なにもかもすべてがリセットされるわけではない現実もじゅうぶん理解しつつ、それでもなお新しい明日に希望を抱く作者の姿が現れる。図面といえば、以前は図面コピーの多くは青焼きだった時代があった。青空を広げたような紙のしっとりと湿り気をおびた感触と、現像液のすっぱい匂いをなつかしく思い出している。〈箒木の好きな大きさまで育つ〉〈クリスマスケーキの上が混雑す〉『犬の眉』(2014)所収。(土肥あき子)
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