December 172013
バカだなと目が言うホットウイスキー
火箱ひろ
サントリーの「ウイスキー入門」によると、ホットウイスキーは「あたたかいグラスから柔らかに香るウイスキーのおいしさは格別」「アウトドアで飲めば、暖をとるのにも効果的」とある。蜂蜜やシナモンなどを加え、お湯割りと言わないところがお洒落感を募らせる。寒い日に頬を明るく染めて、大きなマグカップで飲むホットウイスキーは、気心の知れた者同士がよく似合う。掲句の「バカだな」は声には出していないが、発しているも同然、しかも甘い言葉として。男が女に向かって言う「バカだな」も、女が男に向かって言う「バカね」も、どちらも言葉通りでないことをふたりはじゅうぶんに承知している。というわけで立派なのろけ句なのだが、ほんわかあったかい気分になるのは、やはりホットウイスキーの効果だろう。『火箱ひろ句集』(2013)所収。(土肥あき子)
December 162013
寄鍋の席ひとつ欠くままにかな
福山悦子
忘年会シーズンもたけなわだ。句は、そんな会合での一コマだろう。定刻をかなり過ぎても来ない人を待っているわけにもいかず、先に始めてしまったのだが、待ち人はいつまでたっても現れない。「どうしたんだろう」と気にしながらも、鍋の中身はどんどんたいらげられてゆく。格別に珍しい情景ではなく、類句も多い。が、私くらいの年齢になると、こういう句はひどく身にしみる。いつまでも来ない人に、若いころだったら「先にみんな喰っちゃうよ、知らないよ」くらいですむところを、最近では「何かあったんじゃないか。急病かもしれない」などとその人のいない席を気にしながら、心配しつづけることになる。若い人ならば当人に携帯で連絡を取るところだが、我らの世代にはそんな洒落たツールを持ち合わせている奴は少ない。みんなで「どうしたのか、死んじゃったかも」などと埒もないことを言いながら、結局は時間が来ておひらきとなる。その間のなんとなくもやもやとした割り切れない気持ちを、思い出させる句だ。トシは取りたくないものです。『彩・円虹例句集』(2008)所載。(清水哲男)
December 152013
ことごとく雪に省略されし町
鳥居三太
雪の町の実景です。一つの町の実景でありながら、隣の町にもその隣の町にも「ことごとく」雪が降り積もって、町の輪郭がどんどん消されて「省略」されていきます。作者が目の前で見ていた町は、積雪とともに単純な雪景色へと抽象化されていき、現実から離れたこころもちになります。でこぼこ道も、茶色く枯れた雑草も、公園の三輪車も、屋根の三角もじょじょにその姿を雪に消され一様に白くなっていきます。同時に、雪は音を吸収し、降る雪の結晶が落下する姿に音を錯覚するほどの静寂。カンディンスキーは「デッサンの能力は省略だ」と言いました。画家は、消しゴムやパンで線と面を消しますが、地球は雪でそれをおこなう美術家です。「太郎冠者」(1995年)所収。(小笠原高志)
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