October 242002
定年やもみじはらはらうらおもて
八木忠栄
季語は「紅葉散る」でもよいけれど、当サイトとしては「紅葉かつ散る」に分類しておきたい。紅葉している木もあれば、散っている木もあるという意味だ。すなわち、定年に達した自分もいるし、もうすぐ定年になる同僚もいるというのが会社というところである。このところ、定年を迎える友人知己が増えてきた。作者も、その一人だ。挨拶状を受け取るたびに、なんだか自分も定年を迎えたような気分になる。そんな年齢になってしまったのだ。サラリーマンを早くに止めてしまった私には、定年者の感慨はもちろん想像してみる他はない。人それぞれではあろうけれど、案外、共通した思いもありそうだと思う。会社組織が似たような構造を持つ以上、そこを離れる者にも似たような感想も生まれるのではあるまいか。掲句は、そういうことを言っているような気がする。すなわち、個人的な感慨はとりあえず別にして、定年者一般の心持ちを美しく散り逝く「もみじ」の光景に託している。作者も「はらはらと」散った葉の一枚にはちがいないけれど、どの葉が自分であるのかはわからない。散り敷いて、「うら」になっている葉もあれば「おもて」のものもある。「うらおもて」などは、なおさらにわからない。しかし、そんなことはどうでもいいのさ。みんな、お互いによく働いたね。なお「はらはらと」散る紅葉を浴びながら、作者は心の内で、そう呼びかけている。個人誌「いちばん寒い場所」(2002年・40号)所載。(清水哲男)
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