1997年1月22日の句(前日までの二句を含む)

January 2211997

 東西南北より吹雪哉

                           夏目漱石

ンタツ・アチャコの漫才コンビで有名だった花菱アチャコのせりふではないが、「もう、むちゃくちゃでござりまするワ」という物凄い吹雪。「東西南北」は「ひがし・にし・みなみ・きた」と読むと、五七五音におさまる。ただ、物凄い吹雪ではあるけれども、アチャコのせりふと同じように、悲愴感はない。巧みな句でもない。作者は、この言葉遊びめいた、ちょっとした思いつきを楽しんでいるのであって、漱石にとっての俳句とは、ついにこのような世界で自適することにあったのかもしれぬと思う。『漱石俳句集』(岩波文庫)所収。(清水哲男)


January 2111997

 妻の手のいつもわが邊に胼きれて

                           日野草城

聞で、盥で洗濯をするペルー女性の写真を見た。三十数年前までの日本女性の姿と同じだった。洗濯板も、ほぼ同型。下宿時代の私にも経験があるが、冬場の洗濯はつらい。主婦には、その他にも水仕事がいろいろとある。したがって、どうしても冬は手があれてしまう。よほど経済的に恵まれた家庭の主婦でないかぎり、きれいな手は望むべくもなかった。そんな妻の手へのいとおしみ。敗戦直後の作品である。あと半世紀も経ないうちに、この句の意味はわからなくなってしまうだろう。『旦暮』所収。(清水哲男)


January 2011997

 居酒屋の灯に佇める雪だるま

                           阿波野青畝

華街に近い裏小路の光景だろうか。とある居酒屋の前で、雪だるまが人待ち顔にたたずんでいる。昼間の雪かきのついでに、この店の主人がつくったのだろう。一度ものぞいたことのない店ではあるが、なんとなく主人の人柄が感じられて、微笑がこぼれてくる。雪だるまをこしらえた人はもちろんだけれど、その雪だるまを見て、こういう句をつくる俳人も、きっといい人にちがいないと思う。読後、ちょっとハッピーな気分になった。『春の鳶』所収。(清水哲男)




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