May 051997
大鍋のカレー空っぽ子供の日
西岡一彦
給食メニューの人気ランキングで、常にトップの座に君臨しつづけてきたカレーライス。子供たちは、本当にカレーが好きだ。私も好きだが、妙に凝った味のものよりも、そこらへんの店のありふれたものがよい。昔ながらの「そば屋のカレー」も独特な味がしてなかなかのものだが、時に飲み水のコップにスプーンを漬けて出してくる店があり、あれには閉口させられる。何の「まじない」なのだろうか。この句は、こどもの日のイベントが果てた後の感慨だろう。逞しい彼らの食欲に、人としての未来を感じ希望を感じている。それこそ妙に凝っていないところが、この句のよさである。(清水哲男)
May 041997
煮蜆の一つ二つは口割らず
成田千空
人間にも強情な奴はいるが、蜆(しじみ)にも、なかなかどうして頑迷な奴がいる。素直じゃない。可愛くない。とまあ、これはもちろん口を割らない蜆のせいではないとわかってはいるけれど、ついつい人間世界に擬してしまいたくなるのが、人情というものだろう。滑稽にして、俳味十分。成田千空は、かつて学生時代の私が投句していた頃の「萬緑」(中村草田男主宰)のエース級同人。現在の主宰者である。(清水哲男)
May 031997
憲法の日や雑草と山に居る
熊谷愛子
憲法が施行された五十年前に大人だった人々にとって、新憲法はまぶしいほどの衝撃をもたらしただろう。とくに、第9条は。「……国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」。文字通り塗炭の苦しみをなめさせられた庶民のひとりとして、作者は戦争のない世の中の幸福をしみじみと味わい、雑草さえもがいとしく感じられ、共に生きる心持ちになっている。風はそよ風。上天気。(清水哲男)
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