2016年6月29日の句(前日までの二句を含む)

June 2962016

 すべすべもつやもくぼみもさくらんぼ

                           小沢信男

まれているのは、まぎれもないさくらんぼのいとしおさである。さはさりながら、それにとどまるものでないことは言うを待たない。「すべすべ」「つや」「くぼみ」――それらは、ずばり女体である。老獪な信男による女体礼讚となっていると読みたい。よって、このさくらんぼの形体も色つやも、さらに旨味さえもいや増してくるのだ。句が平仮名書きになっていることによって、なめらかさを強調していることにも注目しなくてはならない。きわどい句ではあるけれど、嫌味は寸分も感じられない。《骨灰紀行》のある信男にして、このエロティシズムはみごと! 何年か前、ある団体の詩のセミナーを山形市で開催することになり、担当していた私は、どうせなら、さくらんぼの時季に合わせたらいいという提案をして実現した。セミナーの翌日、高価な佐藤錦をみんなでうんざりするほど(木に登ったりして)食したことがある。「桜の坊」→「さくらんぼ」は日本に、佐藤錦、高砂、ナポレオンなどをはじめ1000種類があるという。もちろん生産量は山形県が圧倒的。信男の夏の句には「うすものの下もうすもの六本木」がある。掲出句は当初、第三句集『足の裏』(1998)に収められ、その後、全句集『んの字』(2000)に収録された。(八木忠栄)


June 2862016

 くまモンの頬っぺは真っ赤新樹光

                           内ひとみ

州新幹線全線開業をきっかけに生まれた熊本のマスコットキャラクター「くまモン」。全国数あるキャラクターのなかでも群を抜いて認知度が高いのは、その親しみやすく利用しやすいデザイン性にあるという。大きな黒い体のなかに、情熱や活気を表す赤のコントラストがひときわ目を引く。熊本地震支援の一環で、許諾不要で使用可能という措置が取られ、また様々な人がくまモンのイラストを描くエールも誕生した。アンテナショップや物産展の利用、ふるさと納税など、災害にみまわれた地に向けて、新しい支援のかたちが生まれる。新樹からこぼれる光りのなかで、くまモンのほっぺはますます赤く染まり、地元を背負うキャラクターとして胸を張っているように見える。〈死者の海生者の海よ大花火〉〈山噴いて原始人めく夏の昼〉『道行』(2016)所収。(土肥あき子)


June 2662016

 竹夫人背より胸の透けゐたり

                           田島徳子

月十八日。第125回余白句会の兼題は、「竹夫人(ちくふじん)」でした。「絶滅寸前のこの季語の例句を増やそう。」騒々子こと井川博年さんの声かけです。私は、竹夫人の実物を見たことがありません。写真で見ると、竹で編んだ抱き枕のようなもので、1mくらいでしょうか。出題の井川さんは、最近、整体院で見たそうで、そのままの写生句「マッサージ台にごろりと竹夫人」。昨今、冷房が整っているので、寝床から竹夫人は消えましたが、指圧の時には重宝されるようです。ところで、私の家に、うなぎを獲るための竹で編んだ細長いしかけがあります。いつか川に仕掛けて、天然のうなぎをさばいて食おうと数年前から用意しているのですが、いまだ未使用です。これを竹夫人に見立てて一週間ほど抱いて寝ましたが、名句は生まれませんでした。これを句会に持って行ったところ、土肥あき子さんが手にとり、なんだかベタベタする、と言って手を洗いに行きました。無理もありません。失礼致しました。実際の竹夫人にもそんな淫靡な湿っぽさがくっついているのではないかと思うのですが、掲句には、それを払拭する清涼感があります。竹夫人を使用する人と行為よりもまず、竹夫人そのものに即した描写をして、品を出しました。なお、「背」は「せな」と読ませています。句会では多くの讃辞を得て、堂々の「天」。田島さんの俳号は多薪(たまき)でしたが、次回からは稲狸(いなり)になるそうです。(小笠原高志)




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