2016N48句(前日までの二句を含む)

April 0842016

 低く低くわれら抜きたりつばくらめ

                           斎藤悦子

ばくらめは燕。人家か人に近く営巣するので滞在中は家族同様の親しみを受ける。燕は飛翔しながら飛翔中の昆虫を捕えて食べる。虫は気象状況に応じて地面に近く又は高く飛ぶ。今日はだいぶ低い所を飛び回って捕食している。歩行者にぶつかりそうでいていて見事に切り交して行く。おや今度は腰あたりの低さで抜いていったぞ、とわれらは感心するのである。斎藤悦子氏が詩人仲間に俳句作りを提案して、インターネット上で俳句の集いを始めた。種本はその仲間たちの句が収録されて上梓された書籍中の一句である。<モノクロの蝶の訪れ初夏の窓・かんちゃんこと高橋実千代><満月やわが細胞の動き出す・塚原るみ><あぢさひや嫁ぐつもりと父に言ひ・森園とし子><姿なき口笛の今朝は野バラね・齋藤比奈子><焼芋をふたつに割れば姉の顔・越坂部則道>などなど「亡き友人かんちゃん」の仲間たちの句集である。メモルス会他著『かんちゃんと俳句の仲間たち』(2010)所載。(藤嶋 務)


April 0742016

 クローバーに置く制服の上着かな

                           村上鞆彦

日、明日あたり入学式の学校が多いのではないか。真新しい制服に身を包みなじみのない集団に身を投じての学校生活が始まる。この頃はつらいニュースも多いけど思っても見なかった出会いもあり心弾ませて毎日を過ごしてほしいものだ。さて掲載句は新しく萌え出たクローバーの上に腰を下して制服の上着を脱いで置くという簡単なものだが、そこに春の明るい日差しと暖かさ、おそらくは上着を脱いで友と語らう若い人の快活な様子も想像されて好ましい。クローバーはシロツメグサとも言い春になると萌え出る柔らかい若葉が嬉しい。幸せが約束されると四葉のクローバーを探したり、もう少し季節が進むと白い花を摘んでせっせと花冠や首飾りなど編んだ。校庭や野原で外遊びする子供のいい遊び相手であり、初々しい人たちに似合いの植物だ。『遅日の岸』(2015)所収。(三宅やよい)


April 0642016

 さくらさくらわが不知火はひかり凪

                           石牟礼道子

知火海は熊本県と鹿児島県にまたがる八代海のことである。水俣病でよく知られた水俣湾は、不知火海の水俣市沿いを言う。桜が咲き乱れている季節である。光をいっぱいに受けている不知火の海面は凪で、いっそう光り輝いているのであろう。未曾有の工場排水によって、住民が長年苦しんだ惨い歴史をもつ海には、それでもこの季節にふさわしく、光を受けてウソのように何事もないかのごとく、静かに凪いだ水面が広がっている。道子は俳人ではないけれど、あの穴井太と出会って交流するなかで、1986年に句集『天』を刊行している。(原告とチッソが和解するのは10年後だった。)掲出句と、もう一句「祈るべき天とおもえど天の病む」を引用して、酒井佐忠は「彼女の心の底には、いつも桜花が春風に花びらを揺らすように、キラキラと水面を光り輝かせるかつての『不知火の海』がうごめいている」(「抒情文芸」157号)と評している。これら二句は『天』に収められたもの。『石牟礼道子全句集・泣きなが原』(2015)所収。(八木忠栄)




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