2016N319句(前日までの二句を含む)

March 1932016

 青も勝ちむらさきも勝つ物芽かな

                           中村草田男

芽は、ものの芽、「なにやらの芽といふ心持である」とは、この句を引いた「虚子編歳時記」(1940・三省堂)による。草の芽とも木の芽とも限定されていないが、「木の芽より草の芽についていうことが多い」(俳句歳時記 第四版・角川学芸出版)。そうだったのか、空を見上げた時に目に留まる枝先や遠景の木々の色合いにものの芽感を覚えていたので、草の芽と言われてすこし戸惑った。しかしいずれにしても、芽吹くといえばいわゆる青、つまりは緑という印象があるところを、むらさき、といったところに、ものの芽の仄かな紅が滲み出て瑞々しい。枯色から次第に息づくその力が、勝つ、という強い表現を重ねることで躍動感をもって伝わって来る。(今井肖子)


March 1832016

 鳥雲に子の妻は子に選ばしめ

                           安住 敦

雲には「鳥雲に入る」をつづめた春の季語。北に帰る雁・鴨・白鳥・鶴などの大きい鳥が一群となって雲間はるかに見えなくなる様を言う。さて結婚について、私の世代は見合い結婚と恋愛結婚の狭間にあったろうか。息子の嫁を親が決めていた時代が遠のきつつあった。安住にとっても、もう自由に嫁を探しなさいという時代にあったのだろう。しかし近時お見合いが商業化したところを見ると今も私の様に奥手の者が存在するのも事実だなあと実感する。縁は異なもの粋なもの恋愛も見合いも何かのご縁、どのような出会いも素敵なものである。時代は巡れどカリガネ達は万古の習いに従ってただひょうひょうと流されてゆく。清水哲男著『家族の俳句・歳時記』(2003)所載。(藤嶋 務)


March 1732016

 春は覗くと荒れる紫水晶

                           中西ひろ美

本気象協会によると東京で10メートル以上の強い風が吹く日数は三月が一年中で一番多いそうだ。この頃、日本付近が通る低気圧が発達しやすいのが強風の原因とか。「春疾風」「春北風」と春の突風を表す季語も多い。「水晶を覗く」と言えば未来を占う丸い水晶を連想するが、紫がかった水晶はアメジストと呼ばれ二月の誕生石だという。覗かれる紫水晶と春がだぶって、覗いた水晶の内部で春の強風が吹き荒れているようだ。春は紫水晶の内部が荒れるのか。紫水晶を覗くと春が荒れるのか。外部と内部が入れ子細工のようで不思議さを感じさせる。『haikainokuni@』(2013)所収。(三宅やよい)




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