2016N318句(前日までの二句を含む)

March 1832016

 鳥雲に子の妻は子に選ばしめ

                           安住 敦

雲には「鳥雲に入る」をつづめた春の季語。北に帰る雁・鴨・白鳥・鶴などの大きい鳥が一群となって雲間はるかに見えなくなる様を言う。さて結婚について、私の世代は見合い結婚と恋愛結婚の狭間にあったろうか。息子の嫁を親が決めていた時代が遠のきつつあった。安住にとっても、もう自由に嫁を探しなさいという時代にあったのだろう。しかし近時お見合いが商業化したところを見ると今も私の様に奥手の者が存在するのも事実だなあと実感する。縁は異なもの粋なもの恋愛も見合いも何かのご縁、どのような出会いも素敵なものである。時代は巡れどカリガネ達は万古の習いに従ってただひょうひょうと流されてゆく。清水哲男著『家族の俳句・歳時記』(2003)所載。(藤嶋 務)


March 1732016

 春は覗くと荒れる紫水晶

                           中西ひろ美

本気象協会によると東京で10メートル以上の強い風が吹く日数は三月が一年中で一番多いそうだ。この頃、日本付近が通る低気圧が発達しやすいのが強風の原因とか。「春疾風」「春北風」と春の突風を表す季語も多い。「水晶を覗く」と言えば未来を占う丸い水晶を連想するが、紫がかった水晶はアメジストと呼ばれ二月の誕生石だという。覗かれる紫水晶と春がだぶって、覗いた水晶の内部で春の強風が吹き荒れているようだ。春は紫水晶の内部が荒れるのか。紫水晶を覗くと春が荒れるのか。外部と内部が入れ子細工のようで不思議さを感じさせる。『haikainokuni@』(2013)所収。(三宅やよい)


March 1632016

 山麓は麻播く日なり蕨餅

                           田中冬二

になって山麓の雪もようやく消え、麻の種を播く時期になった。この麻は大麻(おおあさ/たいま)とはちがう種類の麻である。幼い頃、私の家でも山間の畠に麻を少し作っていた記憶がある。麻は織られて野良着になった。冬二が信州を舞台にして書いた詩を想起させられる句だ。詩を読みはじめた頃、それら冬二の詩が気に入って私はノートに書き写した。蕨餅を頬張りながら麻の種を播いているのであろうか。いかにも山国の春である。蕨餅は本来蕨の根を粉にした蕨粉から作られるところから、こういう野性的な名前がつけられた。今はたいていはさつまいもや葛の澱粉を原料にした、涼しげで食感のいい餅菓子である。春が匂ってくるようだ。京都が本場で、京都人が好む餅菓子だとも言われる。当方は子どものころ、春先はゼンマイやワラビ、フキノトウ採りに明け暮れていた時期があったが、蕨餅は知らなかった。蕨は浅漬けにして、酒のつまみにするのが最高である。歳時記には「わらび餅口中のこの寂蓼よ」(春一郎)という句もある。蕨ではなくて「蓬」だけれど、珍しい人の俳句を紹介しておこう。吉永小百合の句に「蓬餅あなたと逢った飛騨の宿」がある。平井照敏編『新歳時記・春』(1996)所収。(八木忠栄)




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