2015N711句(前日までの二句を含む)

July 1172015

 花柘榴雨きらきらと地を濡らさず

                           大野林火

榴の花の赤は他のどの花にもない不思議な色だ。近所に、さほど大きくない柘榴の木が門のすぐ脇に植えられている家がある。今年も筒状の小さい花が、ことさら主張することなくそちこち向きつつ葉陰に咲いていたが、自ずと光って通りがかりの人の目を引いていた。その光る赤を表現したい、と思ったことは何度もあるのだが今ひとつもやもやしたまま過ごしていた時この句を知った。細かい雨の中、柘榴の花が咲いている。きらきら、は柘榴の花そのものが放つ光の色であり、雨は光を溜めて静かに花を包んでいる。その抒情を、地を濡らさず、という言い切った表現が際立たせており、作者の深く観る力に感じ入る。『季寄せ 草木花 夏』(1981・朝日新聞社)所載。(今井肖子)


July 1072015

 大瑠璃や岸壁すでに夜明けたる

                           石野冬青

字どおり瑠璃色の鮮やかな鳥である。ただしこれはオスの色で、メスはぐっと地味なスズメ色(オリーブ褐色)である。九州以北の低山の林に夏鳥として渡来する。特に渓流に沿った林を好み、飛んでくる虫を空中で捕えては枝にもどる。繁殖期の初夏になると、ピーリーピーリリ、ジジッと、必ず最後にジジッと言う声を響かせて鳴く。この鳴き声の美しさは、コマドリの「ヒンカラカラカラ」、ウグイスの「ホーホケキョー」と共に日本三鳴鳥と讃えられている。驚くほど星の美しい渓に寝付かれぬ夜を明かす。テントから顔を出せば夜も白々と明けて清らかな水の流れが聞こえてくる。うっすらと白んだ岸壁には「ピーリーピーリリ、ジジッ」が鳴き響いている。<瑠璃鳴くる方へ総身傾けぬ>(加藤耕子)では無いが、耳だけでなく全身で聴きたくなる声である。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(藤嶋 務)


July 0972015

 立ち読みの皆柔道部夏の暮

                           森島裕雄

るいる。部活帰りの重そうなビニールバッグを足元に置いて、柔道部の連中が書店の雑誌売り場にコミック売り場にごそっと溜まって立ち読みをしている。見回りの先生が一瞥すれば、野球部のメンツ、サッカー部のメンツ、とすぐに判別がつくのだろう。それにしても柔道部ときたらみんなガタイがよくて、おまけに暑苦しそう。夏の暮は七時ぐらいになってもまだ明るい。通勤帰りの客がちょっと書店でも寄ってみようかと思う時間帯でもある。場所ふさぎの連中には退去してほしいが、店の人が声をかけるのも躊躇するぐらい迫力があるのかも。柔道部の連中もそんな店の雰囲気を察して大きな身体を縮こませて立ち読みをしているのかも。そんな情景を想像すると掲句の「柔道部」に何ともいえない愛敬とおかしみがある。『みどり書房』(2015)所収。(三宅やよい)




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