東京は今日あたり梅雨入りかなあ。大気がそんな気配だ。(哲




2015ソスN6ソスソス8ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 0862015

 涼風の一楽章を眠りたり

                           矢島渚男

者は、一楽章を聞き落としたことを、少しも残念には思っていない。むしろ逆にそれをよしとしている。これもまた、音楽鑑賞の醍醐味なのだ。私にも覚えがあるが、この眠りは実に快適だ。そもそも野外音楽堂などでのコンサートは、周囲の環境をひっくるめて音楽を楽しもうという意図があるのだから、はじめから聴衆の眠りを拒否などしていないのである。このことから言うと、ひところ注目された「ヒーリング・ミュージック(癒しの音楽)」などとは、似て非なる世界だろう。こちらは、いわば強引に人工的に眠りを誘いだそうとする企みの上に存在していて、なんだか睡眠薬を盛られているような感じを受ける。実際の涼風のなかを流れてくる「自然の癒し効果」には太刀打ちできないのだ。この句の音楽はクラシックだが、眠くなるのはクラシックに限らない。かつて草森紳一は「ビートルズは眠くなる」と書いて、秀抜な音楽鑑賞論を展開した。彼に言わせれば、世の名曲はすべて私たちに催眠効果を及ぼすというのである。『翼の上に』所収。(清水哲男)


June 0762015

 高原の空は一壁水すまし

                           平畑静塔

和46年上梓の『栃木集』所収です。各地を吟行した句集で、掲句は長野で作られました。「空は一壁」から雲はなく、広く晴れ渡った無風状態を想像します。また、「一壁」は「一碧」に通じて、空は濃い紺碧色のようです。今日の空は完璧だ、という思いもありそうです。作者の視線は、空から一転して池に目を落とします。無風の水面は、紺碧の空を映して鏡のようです。そんな、絶好の舞台に登場する一匹の水すましは、六本の細い脚がわずかに水紋を描き、明鏡止水の水面に波紋をもたらします。しかし、その崩れも束の間で、やがて一壁の空を映す水面は、完全な平面に戻ります。静中動在り。鍼ほどにか細い脚が、一瞬水面の天を動かす面白さ。なお、作者は和歌山出身なので、「水すまし」は甲虫のそれではなく、「あめんぼ」の別名として読みました。(小笠原高志)


June 0662015

 口癖は太く短くビール干す

                           後藤栖子

く短く、が例えば夫の口癖だとすれば、もうその辺で止めておいたら、と気遣っている妻に向かって、いいんだよいいんだよ、ビールが無くて何の人生だ、などと言っていそうだ。しかし飲み仲間でも、最後までビール、という人は数えるほどしかいない、真のビール好きである。飲む、でも、酌む、でもなく、干す、の勢いが、ビールらしく軽やかだが、作者の後藤栖子さんは二十代から病と闘われて、平成二十年六十七歳で亡くなられたと知った。そんな作者自身の言葉だとすると、太く短く、はまた違ったものになる。背景から作者の真意を読み解くこともひとつ、短い十七音の第一印象から読み手自身の中で自由に広げていくのも俳句ならではだが、いずれにしてもこの句のビールの持つ明るさは変わらない。『新日本大歳時記 夏』(2000・講談社)所載。(今井肖子)




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