May 162015
さんさんと金雀枝に目があり揺れる
佐藤鬼房
玄関先に金雀枝の大ぶりの甕のような鉢が置いてあり花盛りだ。ほとんど伸び放題でどんどん咲いて散っているが、くたびれてぼんやり帰宅した時その眩しさを超えた黄に迎えられるとほっとする。我が家の金雀枝は黄色一色だが、掲出句のものは赤が混じっている種類だろう、おびただしい花の一つ一つが目のように見えている。一般的に、小さいものがぎっしり、という状態はそれに気づくとちょっとぞわっとするものだ。筆者にとってはピラカンサスや木瓜の花などがその類なのだが、作者にとってこの金雀枝はそうではない。金雀枝の風に遊ぶ自由な枝ぶりと初夏の光を湛えた花の色が、さんさんと、という言葉を生んで明るい。『花の大歳時記』(1990・角川書店)所載。(今井肖子)
May 152015
いつまでも夕日沈まず行々子
森田 峠
ギョウギョウシ、ギョウギョウシ、ケケシ、ケケシと鳴くので行々子と言われる。河川や湖沼の葦原などに生息する葭切にオオヨシキリとコヨシキリがある。このオオヨシキリの鳴き声がこれである。コヨシキリはピピ、ジジジと聞こえる。オスが高い葦の茎に直立した姿勢でとまり、橙赤色の口の中を見せてさえずっている。夏の日の中々沈み切らない夕まずめにいつまでも鳴き続けている。夏の日の長いこと。他に<歌うたひつヽ新妻や蒲団敷く><四戸あり住むは二戸のみ時鳥><少しづつかじるせんべい冬ごもり>など。「俳壇」(2014年11月号)所載。(藤嶋 務)
May 142015
飛行機が大きく見える夏が来る
中谷仁美
今年の春はぐずぐずと雨が降っていつまでも寒さが残ると思っていたが、四月の下旬から突然夏になった。立夏の前に早々と夏の只中に放り込まれた印象だった。ぼんやりと霞んだような春空の曖昧さとは違い、夏空は輝く群青で、ものの輪郭をくっきりと描き出す。頭上の爆音に空を見上げれば銀色の腹に時折鋭い光をきらめかせながら飛行機がゆっくりと横切ってゆく。夏空をゆく飛行機は他の季節にくらべてひときわ大きく力強い。エネルギーに満ちた夏の訪れは楽しみでもあるが、照りつける日差しと熱気にいたぶられ、うんざりと連日の「晴れ」マークが続く日々でもある。さて、本格的な夏が来るが、今年の夏はどんな夏だろう。『関西俳句なう』(2015)所載。(三宅やよい)
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