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September 2892014

 綾取りの綾なす吾の暮しかな

                           茂木房子

という言葉が気になっていました。先日、野球解説者の吉田義男が、「タイガースはここで勝負のアヤをつける必要がありますね」と言ったのにひっかかり、そういえば将棋の解説でも、「ここはちょっと玉頭にアヤをつけておきますか」というようなことを耳にします。洒落た言い方ですが、その本義が不明でした。大漢和では、「浮き出た感じに模様を織り込んだ薄い絹布。光る部分と光らない部分を織り出している絹織物」とあり、絹布の装飾ということがわかりました。「ことばの綾」という使われ方は、この本義から派生した用法でしょう。また、「あや織り」は、経(たて)糸と緯(よこ)糸の布面に斜めのすじを織り出した布のことを言い、糸が錯綜して模様を作っている状態です。野球や将棋の解説で使われる「アヤ」は、局面が硬直していたり劣勢のときに、正攻法とは違った角度から打開する手だてのことを言うのでしょう。こんなことを踏まえて掲句を読むと、「綾取りの綾なす暮し」が、巧みな生き方であることがわかります。綾取りは、糸が構成する平面や立体を二人が交互に何通りか繰り返す遊びです。これは、お互いにパターンを共有していなければ遊びが続きません。「吾の暮し」では、相手と互いに向き合い続けてやりとりしていることが前提となります。それは、時に二人の間に絡みついた糸のほつれをほどくことでもあるのでしょう。また、新たに糸を張ることでもあるでしょう。この巧みに綾なす生き方は、四季を通しておこなわれており、ゆえに季語はありません。『モネの絵』(2006)所収。(小笠原高志)




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