いやまあ、よく降りますね。今年の梅雨には近年になく根性がある。(哲




2014ソスN6ソスソス11ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 1162014

 月山の水に泳げや冷奴

                           丸谷才一

と水と冷奴ーー文字づらからして、涼味満点と言っていい夏の句である。敢えて「夏は冷奴にかぎる」と、この際言わせてもらおう。月山の名水に月のように白く沈む冷奴は、いかにもおいしそうである。詞書に「うちのミネラル・ウォーターは『月山ブナの水音』といふ銘柄」とあるから、作者が愛飲していた故郷の水であろう。月山を源流とする庄内の立谷沢川は“平成の名水百選”であり、水も冷奴もいかにもおいしそうだ。「泳げや冷奴」とは「泳げや才一」という、自身への鼓舞の意味と重ねているようにも私には思われる。才一は山形県鶴岡出身の人。ここでは名水を得て泳ぐ冷奴が喜々としているように映る。そういえば、山形で私も何度か食べた豆腐は、冷奴に限らずいつもおいしかった記憶が残っている。水が上等だから豆腐もおいしいわけである。掲句は第一句集『七十句』に継ぐ遺句集『八十八句』(2013)に収められている。長谷川櫂の選句により、104句が収められた非売品。才一の俳号が「玩亭」だったところから、墓碑銘も「玩亭墓」。他に「ばさばさと股間につかふ扇かな」の句がある。(八木忠栄)


June 1062014

 サイダーや泡のあはひに泡生まれ

                           柳生正名

国清涼飲料工業会が提供する「清涼飲料水の歴史」によると、日本に炭酸飲料が伝えられたのは1853年、ペリー提督が艦に積んでいた炭酸レモネードを幕府の役人にふるまったことから始まる。その際、栓を抜いたときの音と吹き出す泡で新式銃と間違えた役人が思わず腰の刀に手をかけたという記述が残る。その後、喉ごしや清涼感が好まれたことで一般に広く普及した。掲句ではかつての役人が肝を冷やした気泡に注目する。それは表面に弾ける泡ではなく、コップのなかで生まれる泡の状態を見つめる。泡はヴィーナス誕生の美しさとともにうたかたであることのあわれをまとい、途切れなく、そして徐々に静まっていく。〈切腹に作法空蝉すぐ固く〉〈少年も脱いだ水着も裏返る〉『風媒』(2014)所収。(土肥あき子)


June 0962014

 梅雨冷えや指にまつはるオブラート

                           佐藤朋子

薬がカプセルに入れられるようになってから、あれほど普及していた「オブラート」を見かけなくなった。若者だと、知らない人のほうが多いかもしれない。「デンプンから作られる水に溶けやすい半透明の薄い膜のこと」などと説明しても、イメージがわいてくるかどうか。梅雨時に身体をこわしている作者は、苦い粉薬を飲もうとしている。いつものように何気なくオブラートを箱から取りだして薬を包もうとしたら、指にからみついてきてうまく広げられない。室温が低いために、オブラートが指の温度に敏感に反応したわけだ。ただそれだけの些事を詠んでいるのだが、このことがこのときの「梅雨冷え」の様子を具体的に告げていて、印象的な句になっている。ちなみに、「オブラート・oblaat」はオランダ語だそうである。『現代俳句歳時記・夏』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)




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