April 262014
珊瑚咲く海へ染まりに島の蝶
小熊一人
何年か前にも同じことを思った気がするのだが、蝶にあまり出会わない。いかにも麗らかな春の日が少ないからだろうか。そうこうするうちに春は行きつつあり、ぐんぐんと緑が育ってきたこのところである。この句の蝶は島の渚から珊瑚の海へ、染まりながら消えていく。珊瑚は動物だが碧い海にまさに咲いている、とは沖縄の美しい海ならではだろう、『沖縄俳句歳時記』(1985・那覇出版社)から引いた一句。海と珊瑚と蝶、明るく美しい色彩だが、蝶はやがて珊瑚の海で永遠に眠ることを知っているかのように感じている作者、春を惜しむかすかな淋しさがそこにある。(今井肖子)
April 252014
やどかりの中をやどかり走り抜け
波多野爽波
やどかりは、巻貝の貝殻に体を収め、貝殻を背負って生活する。やどかりが何匹かいる中、一匹だけ群れの中を走り抜けたというのだ。単純な写生句のようにも見えるが、作者の細かな観察眼が光っている。やどかりという愛らしい小動物が動く様を思い浮かべてみると、愛らしさと同時に、そこはかとないオカシミが伝わって来る。『一筆』(平成2年)所収。(中岡毅雄)
April 242014
風車売居座る警備員囲む中
榮 猿丸
行楽で賑わう公園の近辺に「物売り禁止」の看板があちこちにかかっている。隅々まで管理の行き届いた都会では「街角の風を売るなり風車」と三好達治が詠んだ牧歌的光景なんてない。しかし、この句にある滑稽な哀感は今の時代ならではのもの。囲まれてだんだんと意地になってくる風車売。力づくでどかすわけにもいかず、顔を見合わす警備員の困惑ぶりを考えると何となくおかしい。どんなトラブルも少し距離をおいてみると戯画的な要素を多分に含んでいる。ささいなことなのに「まあいいじゃない」と流せないのは、今の世の中が杓子定規で余裕がないせいだろうか。そんな思惑をよそにからから回る風車。このあと風車売りはどうなったのだろう。『点滅』(2013)所収。(三宅やよい)
『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます
|