January 182014
雪月夜わが心音を抱き眠る
本宮哲郎
雪月夜、静けさに満ちた美しい言葉だ。高々と在る冬の月の白と一面に広がる雪の白、どちらも輝くというほどではない光を湛えている。そしてそれは、目を閉じて自らの鼓動を確かめながら、来し方に思いをめぐらせている作者の心の中にある光景なのだろう。句集『鯰』(2013)のあとがきに「これからも命ある限り一句初心の志で、自然を通しての生活をより豊かに、より深く詠んでゆきたいと思っております」と書かれた作者だが、昨年十二月十八日に亡くなられた。その言葉どおり、特に掲出句を含む平成二十五年の句はいずれも平明で淡々としていて深い。合掌。(今井肖子)
January 172014
福笑鉄橋斜め前方に
波多野爽波
福笑の遊びをしているのは、室内。斜め前方に見えている鉄橋は、室外である。楽しげに福笑に興じている家族は、鉄橋に目を留めることもない。しかし、この句には、狂気に近い危うさが含まれている。上五「福笑」という和やかな季語は、中七「鉄橋」という無機質的な配合によって、揺すぶられる。しかも、その鉄橋は、「斜め前方」に見えている。この感覚世界は、倒錯感に近い揺らぎを読み手にもたらす。『骰子』(1986)所収。(中岡毅雄)
January 162014
孫を抱く孫は猫抱く炬燵かな
柳沼新次
いいなぁ。おじいちゃんの膝にすっぽりはまる孫の暖かさ、孫の腕の中で眠る猫はすやすや。団子のように身を寄せ合ってあったまるのが冬の楽しみ。マンション暮らしの床暖房で長らく炬燵と無縁の生活をしている私などは、ほのぼのとした炬燵の風景に憧れてしまう。炬燵の上にはミカンがあって、孫のぬくもり猫のぬくもりが心地いい。掲句が収録されている句集の多くは介護度5の妻を支える日常を静かな心で受け止め詠んだ句が多い。「三十歩歩けた妻にポインセチア」「羽布団横掛けにして二人して」それと同時に老年を来て小春日和のようなひとときがある喜びをこれらの句から感じることが出来る。『無事』(2013)所収。(三宅やよい)
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