川上哲治氏死去。93歳。子供のころから最も憧れた選手だった。(哲




2013ソスN10ソスソス31ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 31102013

 木の葉髪鐡といふ字の美しき

                           玉田憲子

鴎外の『羽鳥千尋』に自分の好きな漢字を列挙してゆくくだりがあった。「埃及」「梵語」「廃墟」等々。鏡花は豆腐の「腐」の字が許せなくて「豆府」と表記していたという。字の好き嫌いに関する逸話は多い。掲句の「鐡」は鉄であるが金を失うと意味がつくのでわざわざ作りを「矢」と変えて使用していたら子供が漢字を間違って覚えるからやめてくれとクレームが入ったそうだ。旧字体を社名にしているところもある。「木の葉髪」はパラパラと抜け落ちる毛を落葉に例えての季語。掲句では旧字体の「鐡」の緻密な字画と堅牢な質感と「木の葉髪」の語感の柔らかさと頼りなさとの絶妙な釣り合いが感じられる。両者を結び付けるものは「黒」であり、美しきという一言もそこから響いてくるように思う。『chalaza』(2013)所収。(三宅やよい)


October 30102013

 人生これ二勝一敗野分あと

                           斉藤凡太

太(本名:房太郎)は、新潟県出雲崎で十三歳からずっと漁業に従事している人で、八十七歳の達者な現役漁師。台風で舟が壊れて漁業をやめようと思ったが、「これは人生のうちの一敗。一つぐらい勝ち越したい」と本人が念じての「二勝一敗」である。よけいに欲張らずに、あくまでも現役の骨太く力強い決意の句ではないか。「人間生きているうちは夢を持て」と日頃おのれを鼓舞しているという、説得力をもった一句である。七十歳のとき奥さんを亡くしてから、町の句会に入会したという。今や「新潟日報」紙・毎週の俳壇(選者:黒田杏子)の常連で、熱心に投稿して高い成績をおさめ、注目されている。「年を取って、転ばないように支えてくれるのは杖。俳句も杖のようなもの」と述懐する。今年の「新潟日報・俳壇賞」(10月)で、最高入賞を果たした凡太の句は「つばめ来てわれに微笑む日の光」だった。他に「海鳴りもうれしく聞ゆ雪解風」という漁師らしい句もある。句集に『磯見漁師』がある。「ラジオ深夜便」(2013年10月号)所載。(八木忠栄)


October 29102013

 長き夜の外せば重き耳飾

                           長嶺千晶

中身につけているときには感じられないが、取り外してみてはじめてその重さに気づくものがある。自宅に帰って、靴を脱ぐ次の行為は、イヤリング、腕時計の順であろう。化粧や服装などと同様、女の身だしなみであるとともに外部との武装でもあることを考えれば、昼間はその重みがかえって心地よいものに思えるのかもしれない。装飾品を取り外しながら、ひとつずつ枷を外していく解放感と同時にむきだしになることの心細さも押し寄せる。深々としずかな闇だけが、女の不安をやわらげることができるのだ。『雁の雫』(2013)所収。(土肥あき子)




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