お盆休みで静かな東京。これくらいが人間の暮らせる町だろう。(哲




2013ソスN8ソスソス13ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 1382013

 うぶすなや音の遅るる揚げ花火

                           村上喜代子

と光の関係を理解してはいても、夜空に広がった花火を目にしてから、その光が連れてくる腹の底に響くような音に身をすくめる。鉦や太鼓など大きな音が悪霊を追い払うとされていたことから、花火には悪疫退散の意味も込められていたことがうなずける。歌川広重の浮世絵「名所江戸百景」の「両国花火」を見るとその構図はおどろくほど暗い。時代は安政5年。安政2年の大地震のあと、初めて開催された花火だといわれる。画面の半分以上が占められる夜空には鎮魂も込めて打ち上げられた花火の、火花のひとつひとつまで丁寧に描かれている。花火に彩られた夜空は、ふたたび漆黒の沈黙を広げる。それはまるで、なつかしい記憶をよみがえらせたあと、大切に保管するための重い蓋を閉じるかのように。〈三・一一赤子は立つて歩き初む〉〈ひぐらしは森より蝉は林より〉『間紙』(2013)所収。(土肥あき子)


August 1282013

 窓開けて残る暑さに壁を塗る

                           平間彌生

秋を過ぎてから、尋常でない天気がつづく。猛烈に暑いか、猛烈な降雨か。テレビなどでその理屈は知りえても、この異常な状態を招来している根本的な要因は、さっぱりわからない。東京あたりでは、いやまあその暑いこと。一昨日の武蔵野三鷹地区での最高気温は。38.3度。止むを得ず買い物に出たが、眩暈がしそうな炎天であった。ドイツから里帰りしている娘などは、「東京の残暑に会ひに来たやうな」(浅利恵子)と言っている。掲句の暑さも尋常ではないな。壁を塗るのには時間がかかるから、このときにほんの思いつきで作業をはじめたわけじゃない。何日も前から計画して、いざ実行となったわけだが、ある程度の暑さは覚悟の上ではあるものの、塗りはじめてみると汗が止まらない。むろん、心のどこかで「しまった」とは思うのだけれど、作業を中止するわけにも行かず、そのまま塗りつづけている。これ以上何も説明されなくても、読者にもこの暑さがボディブローのようにじわりじわりと効いてくる。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)


August 1182013

 乾坤のこの一球ぞ甲子園

                           松本幸四郎

台上で見得を切る幸四郎、その人の句です。歌舞伎はもとより、演劇・映画でご活躍中ですが、なかでも、蜷川幸雄演出「リア王」の凋落ぶりと、デビット・ルヴォー演出「マクベス」の陰影のある演技が印象的です。もちろん、代表作「ラ・マンチャの男」は圧倒的ですが、この方の演技は、声が低くなった時も、はっきりと伝わってくる滑舌のよさと節回しの巧みさにあると感じてきました。聞くところによると大のジャイアンツファンで、球場に足を運ばれることもあるそうです。掲句は『仙翁花』(2009)に所収されている「甲子園六句」の中の一句。すり鉢状の球場で、四万人を超える視線は投手の投げる一球に、打者の打つ一球に、野手が捕獲する一球に、一点集中して注がれています。ふだんは舞台上で観客の視線を一身に浴びている作者が、甲子園球場では、マウンド場に向けて熱いまなざしを注いでいる。観客を熱くさせる役者であり続けるためには、まず、自身が熱い観客でなくてはならないということでしょう。今夏も甲子園から、千両役者が生まれることを祈ります。(小笠原高志)




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