五十歳過ぎても、台風と聞くと勇み立つ友人がいた。癌で逝った。(哲




2012ソスN9ソスソス30ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 3092012

 秋蝶や遠のくものに雲一つ

                           中堂高志

蝶に、はっとしています。季節はずれのちょっとした驚きを、切れ字の「や」から読みとれます。秋蝶の羽は薄く、飛び方はおぼつかなく、初蝶の予感にくらべてもののあはれを感じさせますが、これは、見る側の心のもちようの表れでもあるでしょう。ところで、「遠のくもの」とは何なのでしょうか。秋蝶とも、雲一つとも、ほかのものともとれます。この句の面白さはここにもあって、視聴者参加型の双方向TV番組のように、「遠のく[もの]」は、鑑賞者が自由に解答し、いくつもの正解を許容する空欄補充問題です。私が入試の出題者なら、「次の俳句を読んで、『遠のくもの』とは何を指すかを述べなさい」という問題を作ります。センチメンタルな受験生なら、「遠のくものとは、自分の過去、過去に愛した人、愛した土地、郷愁」と答えるでしょうし、理系の受験生なら、「遠のくものとは太陽。地軸の傾きと太陽の運行によって、日照時間は短くなり、気温は低下していき、それが秋蝶の運動能力の低下と、秋の雲の密度の稀薄さの要因となっている」と答えるでしょう。美大受験生なら設問を無視して、「近景の秋蝶は紋白蝶、遠景の雲は蝶と不即不離の構図でパース(遠近感)を作り、白とグレーの遊びのあるグラデーションに動きがあって、俳句は美術たり得る。」と興奮し、最後に音大受験生。「掲句を音符としてとらえると、上五は、a音から始まりa音で終わり、明るく始まっています。切れ字の『や』が、『あ!』と、口を開けています。ところが、中七以下は、toonokumononikumohitotsuで、12音中7音が「o」、3音が「u」で、口を閉じぎみにすぼめています。「遠のくもの」は、時間的には過去であり、空間的には刻々と変化する雲一つであり、近景の蝶に対する新鮮な驚きの明るさと、遠景の雲に対する内省的にめり込んだまなざしを、音標化しています。」私が採点者なら、どれも正解にしたいところですが、出題者と作者には、ずれもよくあります。作者、中堂高志さんは、今春、『モーツァルト、遊びの空間』(神泉社)を上梓された文芸評論家。この本、楽しい読書の時間でした。「菜の花句集」(2002・書肆山田)所収。(小笠原高志)


September 2992012

 月の海箔置くごとく凪ぎにけり

                           三村純也

や遠景、しんと広がる月の海。満ちている一枚の月光の、静かでありながら力を秘めた輝きをじっと見つめている時、箔、の一文字が浮かんできたのだろう。箔の硬質ななめらかさは、塊であった時とは違う光を放っている。句集ではさらに〈一湾に月の変若水(をちみず)凪ぎにけり〉〈月光に憑かれし魚の跳ねにけり〉と続く。変若水、憑、作者と供にだんだん月に魅入られていくような心地である。これを書いている今日、ふくらみかけた月を久しぶりに仰いだ。はじめは雲もないのにどこか潤んでいたが、やがて秋の月らしく澄んできた十日月だった。週末の天気予報はあまり芳しくない様子、投げ入れた芒を見ながら月を待っているが、果たして。『蜃気楼』(1998)所収。(今井肖子)


September 2892012

 ローマ軍近付くごとし星月夜

                           和田悟朗

白い比喩だなあ。そういう予感があって星空を見上げたというドラマの設定ではなくて星空そのものをローマ軍に喩えた句だ。この句の面白さはなぜ「ローマ軍」なのかの一点。星の数から連想される大軍のイメージ。ならば家康軍でも蒙古軍でも米軍でもソ連軍でもいいのだけれど作者にとってはローマ軍なのだ。歴史ドラマではローマ軍は悪役になることが多い。でもこの句には悪役が近づいてくる危機感なんかない。ギリシャ軍だと悲劇は演出できるけど星の数ほどの大軍のイメージはないし。そんな入れ替えが楽しめる句だ。『季語きらり100』(2012)所収。(今井 聖)




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