July 112011
出目金に顔近づけて聞き流す
陽美保子
そう重要な話でもないが、いちいちうなずくのも面倒な中身だ。そんな話をしてくる人が傍らにいて、なおくどくどとつづけてくるので困っていると、折よく目の前に金魚を飼っている水槽があった。デパートなどの一角だろうか。べつに出目金など見たくはないのだけれど、「おっ」と引きつけられ感心したふりをして顔を近づけ、相手の話をやり過ごしたというのである。さすがに、この人も黙ってしまったことだろう。作者が見入ったのが出目金だったのが、なんとも可笑しい。作者自身の目も、このときの意識では出目金状態にあるからだ。日常の瑣事中の瑣事をうまくとらえた佳句である。こういうことが書けるのは、俳句だけでしょうね。『遥かなる水』(2011)所収。(清水哲男)
July 102011
待たさるることは嫌ひなサングラス
安藤久美
この句を読んだ時に、どうしても思い出してしまうのは、つい先日、辞任をした大臣のことです。数分待たされただけで、相手を叱りつけていた映像を幾度か見ましたが、人が人を叱っているところを見るのは、なんともつらいものです。みちなかで、小さな子どもを叱りつけている母親を見るのもいやだし、電車の中で頑固そうな老人が、奥さんを意地悪くいじめているのを見るのも、いやな気分です。サングラスというと、どこか横柄で威張った感じがするので、このような句ができたのでしょう。確かにうまいなと思います。でも、サングラスをかけている人が皆、横柄かと言うと、もちろんそんなことはありません。どちらかというと内気で、人の顔もまともに見られないデリケートな心の持ち主だって、ひっそりとサングラスをかけます。そういえばあの元大臣は、記者会見で薄いサングラスをかけていたなと、また思い出してしまいました。この句にはなんの関係もないのだとは、もちろんわかっているのですが。『新日本大歳時記』(2000・講談社) 所載。(松下育男)
July 092011
サルビアの真赤な殺し文句かな
徳永球石
サルビアの赤はまさに赤、紅ではない。今ちょうど試験の採点に使っているこのサインペンの赤、どことなく郷愁を誘う色である。この赤といい、殺し文句というフレーズといい、ひと昔前の香りがしている。この赤が、真っ赤な嘘、と同じだとすれば、あからさまな、明らかな、という意味合いだ。サルビアの花言葉のひとつは情熱、原産国はブラジル。群生して咲くサルビアの赤は圧倒的ではあるけれど、そんな殺し文句には惹きつけらると言うよりちょっと引いてしまいそうである。『新日本大歳時記 夏』(2000・講談社)所載。(今井肖子)
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