まさかこの本を原文で読むことになろうとは。正月の勉強用です。(哲




2009ソスN12ソスソス16ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

December 16122009

 湯豆腐の小踊りするや夜の酌

                           玉村豊男

頃は忘年会の連続で、にぎやかな酒にも海山のご馳走にも食傷気味か? そんな夜には、家でそっとあっさりした湯豆腐でもゆっくりつつきたい――そんな御仁が多いかもしれない。湯豆腐は手間がかからなくて温まるうれしい鍋料理。豆腐が煮えてきて鍋の表面に浮いてくる寸前を掬って食べる、それがいちばんおいしいと言われる。「小踊りする」のだから、まさに掬って食べるタイミングを言っている。表面で踊り狂うようになってしまっては、もはやいけません。掲出句は食べるタイミングだけ言っているのではなく、湯豆腐を囲んでいる面々の話題も楽しくはずんでいる様子まで感じさせてくれる。「小踊り」で決まった句である。古くは「酌は髱(たぼ)」と言われたけれど、ご婦人に限らず誰の酌であるにせよ、この酒席が盛りあがっていることは、湯豆腐の「小踊り」からも推察される。酒席はつねにそうでありたいものである。万太郎の名句「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」にくらべて、親しみとユーモアがほのぼのと感じられる。湯豆腐の句は数あるようだが、意外とそうでもないようだ。三橋敏雄に「脆き湯豆腐人工衛星など語るな」がある。なるほど。豊男には他に「天の寒地に堕ちて白き柱かな」がある。『平成大句会』(1994)所載。(八木忠栄)


December 15122009

 燃やすもの無くなつて来し焚火かな

                           森加名恵

う都会では楽しむことも叶わなくなった焚火だが、わたしの幼い頃は庭で不要品を燃やすことも年末行事のひとつだった。子供はおねしょをするからと、じっと焚火を見つめているだけだったが、青々と澄む冬空へ溶けていくような煙や、思い思いの方向に舞う火の粉など、かつての体験は感触や匂いを伴ってよみがえってくる。掲句もおそらく不要品や落葉などを燃やすための焚火だったのだろうが、そろそろおしまいというところで、なんとなく物足りない気持ちが頭をもたげているのだろう。本来なら掃除といえば、完了というのは喜ばしい限りなのだが、ここには火が消えてしまうというさみしさが生まれている。獣たちが怖れる炎を、いつしか利用するようになり、人間は文明を持ち得たのだという。焚火という火そのものの形を目にしたことで、何千本もの手から手へ伝えられてきた人間と火の関係を作者は見つめ、名残惜しんでいるのだろう。〈かなかなと我が名呼びつつ暮れにけり〉〈ふる里は母居るところ日向ぼこ〉『家族』(2009)所収。(土肥あき子)


December 14122009

 ライオンが検査でゐない冬日向

                           北大路翼

物園でのそのまんま句。しかも、この作者にしてはいやに古風な詠みぶりにも写る。しかし、よく考えてみると、やはりこの句はすこぶる現代的なのであった。一言で言えば、それは対象への関心の希薄性にある。ライオンが詠まれているけれど、べつに作者はライオンを見物する目的で、ここにいるのではないだろう。なんとなくぶらりと入った動物園なのだ。だから、たぶん「検査のため不在」という張り紙を見ても「ああ、そうか」と思っただけなのであり、それ以上の関心は示していない。そのことよりも、暖かい「冬日向」にいられることのほうが、よほどラッキーと思えている。いまや、世の中はイベントだらけだ。早い話がそもそも家庭でのテレビがイベントの倉庫であるし、一歩表に出れば商店街の大安売りなども同類である。つまり好むと好まざるとに関わらず、現代の生活にイベントはつきものとなってしまった。なかでも動物園などは、昔からイベントの常設会場だ。でも昔は珍しい動物に会えるのを楽しみにドキドキしながら入園したものだが、最近は三歳の幼児でも昔の子ほど興奮しているようには見られない。つまり、国民総イベント慣れの時代となったわけだ。このようにイベントに慣らされた感受性には、そこに何かが欠落していたとしても、すぐにテレビのチャンネルを切り替えるがごとく、欠落そのものを忘れてしまう。と言うか、あきらめてしまう。どんどんチャンネルを切り替えてゆく。少しく大げさに言えば、そうしなければ身が持たないからである。この句は作者が意識しているのかどうかは別にして、そうした極めて現代的な感受性が働いた結果の産物なのであり、ここに切り取られている時空間は、昔の俳人ではとても意識できないそれであることだけは間違いのないところだろう。ちっとも古風ではなく、実は新しいのである。『セレクション俳人・新撰21』(2009)所載。(清水哲男)




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