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June 0762009

 酒を煮る家の女房ちよとほれた

                           与謝蕪村

語は「酒を煮る」、夏です。聞きなれない言葉ですが、江戸時代には酒を煮たようです。殺菌のためでしょうか。おそらく蔵出しの日には、女将が道行く人にお酒を振舞ったのでしょう。この句、どう考えても空想で書いたとは思えず、あるいはわざわざ空想で書くほどの内容でもなく、作者自身の体験をそのまま詠んだとしか思われません。みょうに実感があります。深みにはまってしまうのではなく、女性を見て、ああきれいな人だなという程度の、罪のない賛美のこころがよく描かれています。まさに、酒に酔えば美のハードルは若干低くもなっており、軽く酔ったよい気分で、女性に心が向かう姿が素直に伝わってきます。「ちよとほれた」は、すでに酒と恋に酔ってしまった人の、箍(たが)の外れた言い回しになっています。ともかく、こんなふうに浮かれている作者の姿が、なんだかとても身近に感じられ、読者は蕪村の句に、ちょっとならずも惚れなおしてしまいます。『日本名句集成』(1991・學燈社)所載。(松下育男)




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