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April 0742009

 山桜咲く山の木に囲まれて

                           名村早智子

のところ入学式にはすっかり葉桜になってしまうほど桜の時期が早まってしまったが、今年は開花宣言から雪が降るような思わぬ寒さが続いたせいか、いまだ満開とずいぶんと見応えがある。あらゆる樹木のなかで、もっとも人間に近いような気がする桜だが、山中にひっそりと佇む山桜となると人の気配もぐっと薄れ、白々とつつましく、そしてもちろん野趣も持ち合わせる。ソメイヨシノに代表される里桜は、花だけが吹き出すように咲き満ち、その豊満な美しさは絶景でもあるが、圧迫感に胸が塞がれる思いもするものだ。一方、山桜は花のかたわらにつやつやとした紅色の幼葉を伴うことで、全体の輪郭をやわらげ、花の咲く木としての自然な構えがことさら好ましく思える。木漏れ日のなか、山の雑木に紛れ咲く桜には、家族に囲まれた器量よしの娘のような、素顔の輝きがこぼれている。〈芽吹きつつ木は木の容思ひ出す〉〈叱られて金魚の水を替へてをり〉『山祇』(2009)所収。(土肥あき子)


May 3152016

 植田から青田に変はる頃の風

                           名村早智子

年前に流れていたエビスビールのコマーシャルに「日本は風の名前だけでも2000もある国です」というコピーがあった。2000という数字に驚くが、しかし掲句のように名称はないが誰もが明瞭に描くことができる風がそのうえまだある。西洋に「刈りたての羊に風はやさしく吹く」の言葉があるように、頼りなくそよぐ植田に風はなでるように通り過ぎ、元気いっぱいの青田には隅々まで洗い上げるように行き渡る。幼な子が子どもになるまでのほんの束の間、そのとっておきの風は渡る。それはまるで、太陽と大地を両親に持つ苗の健やかな呼吸が、清潔で、みずみずしく、明るい風になっていくようにも思われる。その時期だけの旬の食べ物があるように、その時にしか吹かない旬の風を胸いっぱいに満たしたい。ふらんす堂自句自解2ベスト100『名村早智子』(2016)所収。(土肥あき子)




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