少年サンデーとマガジンが共に創刊五十周年。大学生の私も飛びついて買った。(哲




2009ソスN3ソスソス18ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

March 1832009

 牛のせて舟泛びけり春の水

                           徳田秋声

書に「潮来」とある。潮来(いたこ)の川舟には一度だけ乗ったことがある。もちろん今や観光が主で、日焼けした陽気なおじさんや、愛想のいい若づくりしたおばさんが器用に竿をあやつってくれる。川べりに咲くあやめをはじめとする花や風景を眺めながらの観光は、まちがいなくゆったりした時間にしばし浸らせてくれる。けっこう楽しめる。もっとも、あやめの時季は五月末頃から六月にかけてだから、掲出句で牛を乗せて泛(うか)んでいる舟は、まだあやめの時季ではない。仕事として牛を運んでいるのである。潮来のあたり、観光エリアのまわりには広大な田園地帯が広がっている。春田を耕ちに向かう牛だろうか、買われてきた牛だろうか。いずれにせよ、ぬかる田んぼでこき使われる運命にある。しかし、今はのんびりと広がる田園の風景しか見えていない。竿さばきも悠揚として、舟の上で立ったままの牛も今のところ、のんびり「モォーー」とでも鳴いているにちがいない。春の水も温くなり、ゆったりとして流れるともなく流れている。一幅の水墨画を前にしているようで、こちらも思わずあくびが出そうになる。秋声は師の尾崎紅葉が俳句に熱心だったこともあって、多くの俳句を残している。「花の雨終にはさむる恋ながら」。『文人俳句歳時記』(1969)所収。(八木忠栄)


March 1732009

 そこまでが少し先まで蝶の昼

                           深見けん二

課のように家から200mくらい先のポストまでの道を、季節や天気によって最短距離を選んだり、寄り道したりして歩く。このところのあたたかな陽気では、思わぬ時間を取ってしまい、たかだか投函というだけで小一時間ほどが過ぎている。道草の語源は馬が道ばたの草を食べてなかなか先に進めないということからきているという。そうか、だから「道草を食う」というんだ…、などと、とりとめもなく思いめぐらせることさえのどかな春の午後である。掲句は「蝶の昼」という華やかな季題によって、舞い遊ぶ蝶に「そこまで」の用事を一歩もう一歩と誘導されているようだ。しかし、浦島太郎よろしく「ああ、こんなところまで」と詠嘆の大時代的なもの言いでないところが、現実の静かな実感である。しかし「少し先」には、いつもの「そこまで」とはわずかに違う、ささやかな甘い余韻が漂う。隣りに並ぶ〈蝶に会ひ人に会ひ又蝶に会ふ〉では、掲句よりさらに先まで、めくるめく感覚に歩を進める。次元の裂け目に移ろうように、ひらひらと心もとなく舞う蝶を寄り代にして、現実をまぼろしのように見せ、危うく美しい無限世界を描いている。『蝶に会ふ』(2009)所収。(土肥あき子)


March 1632009

 花の夜をボールふたたび淵を出で

                           竹中 宏

球のボールか、テニスのそれか。夜桜見物の折り、作者がふと川面に目をやると、夜目にも白いボールが浮いてゆっくりと流れていく。作者が目撃した実景は、ただそれだけである。しかし作者は瞬間的に、このボールが長い間川淵に引っかかっていて、それがいま「ふたたび」動き出したのだと思えたことから、俳句になった。では、何故そう思えたのだろうか。無理矢理に想像してこじつけたわけではない。ごく自然に、そう直覚したのだ。この直覚には、間違いなく世代によるボールへの価値観が結びつく。作者と私とはほぼ同世代だが、私たちが小さかった頃、敗戦後まもなくの頃のボールは貴重品だった。野球の試合中でも、何かのはずみでボールが川に落ちると、もう試合どころではない。全員が川まで駈けていって必死にボールを掬い上げたものだった。が、ときどきは、いくら目を凝らしても見つからないことがある。おそらくボールが、川淵の屈まったところに引っかかってしまったに違いないのだ。こうなると、まず見つからない。それでも未練がましく、しばらくは全員でぼおっと悔やみながら川面を見つめていたものだった。この句の実景を目にしたときに、作者の脳裏をすっとよぎったのは、たとえばそんな体験だったろう。だから「ふたたび」なのである。まさか「ああ、あのときのボールだ」と思ったわけではないけれど、ここにはそれに通じる思いがある。ほっとしたような、「なあんだ、こんなところにあったのか」と納得したような……。束の間の非日常的な「花の夜」に誘われたかのようにボールが淵を流れ出て、作者に思いがけない過去の日常をよみがえらせたということになる。私などの世代にとっては、まことにいとおしい時間と空間をもたらしてくれる句だ。俳誌「翔臨」(第64号・2009年2月)所載。(清水哲男)




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