蟄」隱槭′蟾」遶矩ウ・縺ョ句

April 1542008

 戸袋に啼いて巣立の近きらし

                           まついひろこ

会の生活を続けていると、雨戸や戸袋という言葉さえ遠い昔のものに思える。幼い頃暮らしていた家では、南側の座敷を通して六枚のがたつく木製の雨戸を朝な夕なに開け閉てしていた。雨戸当番は子供にできる家庭の手伝いのひとつだったが、戸袋から一枚ずつ引き出す作業はともかく、収納するにはいささかのコツが必要だった。いい加減な調子で最初の何枚かが斜めに入ってしまうと、最後の一枚がどうしてもぴたりとうまく収まらず、また一枚ずつ引き出しては入れ直した泣きそうな気分が今でもよみがえる。一方、掲句の啼き声は思い切り健やかなものだ。毎日使用しない部屋の戸袋に隙を見て巣をかけられてしまったのだろう。普段使わないとはいえ、雛が無事巣立つまで、決して雨戸を開けることができないというのは、どれほど厄介なことか。しかし、やがて親鳥が頻繁に戸袋を出入りし始めると、どうやら卵は無事孵ったらしいことがわかり、そのうち元気な雛の声も聞こえてくる。雨戸に閉ざされた薄暗い一室は、雛たちのにぎやかな声によってほのぼのと明るい光が差し込んでいるようだ。年代順に並ぶ句集のなかで掲句は平成12年作、そして平成15年には〈戸袋の雛に朝寝を奪はれし〉が見られ、鳥は作者の住居を毎年のように選んでは、巣立っていることがわかる。鳥仲間のネットワークでは「おすすめ子育てスポット」として、毎年上位ランキングされているに違いない。〈ふるさとは菫の中に置いて来し〉〈歩かねばたちまち雪の餌食なる〉『谷日和』(2008)所収。(土肥あき子)




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