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April 0642008

 相席に誘はれてゐる新社員

                           中神洋子

いぶん昔の、会社に入った頃のことを思い出しました。就職情報を丹念に調べ、会社の業績や将来性、あるいは社風や社長の理念まで細かく調べ上げても、実際に職場に行ってみなければ、そこがどんな場所なのかということはわかりません。慣れ親しんだ環境から、新しい雰囲気の場所へ移るには、それなりの緊張感が伴います。自分を受け入れてくれるのか。あるいは素直になじむことの出来る空気なのか。そんなことを考えているだけで、緊張感が増してきます。朝早くに初日の出社をし、人事部で大まかな説明を聞き、社員証の写真をとり、所属部署へ案内されても、まだどこかなじめない気持ちを持ち続けています。所属部署に連れて行かれ、一人一人挨拶してまわっても、直属の上司の名前を覚えるのが精一杯です。ほかの社員にはただ頭を下げて、自分の名前と、「よろしくお願いします」を繰り返すだけです。この句は、そんな日の昼食時を詠っているのでしょうか。社員食堂で見よう見まねで食事をトレイに載せ、どこに座ろうかと歩き出したところで、「ここ、どうぞ」とでも言われたのです。テーブルに向かいながら、なんとかここでやっていけるかなと、思いはじめたのでしょう。なんだか句を読んでいるこちらまで、ほっとします。『角川俳句大歳時記 春』(2006・角川書店)所載。(松下育男)


February 2122009

 庭先の梅を拝見しつつ行く

                           松井秋尚

るほど拝見とは、今が盛りの梅にして言い得て妙である。さりげない表現だが、まこと梅らしい。家から駅まで、数分の道のりだけれど、私にも毎年拝見させていただいている梅の木が何本かある。夕暮れ色の薄紅梅、濃紅梅の盆梅、などまさに庭先の梅ばかり。他にも、黒い瓦屋根がりっぱな角の家の白梅。花は小ぶりなのだが咲き広がってきらきらしている。近くのお寺の境内の奥には、今年初めて気がついた青軸の梅が二本。刈り込まれた庭園の梅とはまた違って野梅めき、ひっそり自由に咲いている。梅林よりも、そんな庭先の親しさが好もしい。花の色も形も枝ぶりも実にさまざまな梅の、長い花期を楽しむうち、冴え返ったりまたゆるんだりしながら、日は確実に永くなってきている。サラリーマン時代に、会社の研修の一環で俳句を始められたという作者。〈勤めたる三十年や遠蛙〉〈入社式大根足のめづらしく〉『海図』(2006)所収。(今井肖子)


April 0342011

 酒蔵につとめ法被の新社員

                           大島民郎

月になって初めての日曜日です。大震災の影響で、被災地にある会社では内定取り消しを考えているところもあるようです。事情は理解できないでもありませんが、就職難のこの時期に、やっと仕事が決まってホッとしていた学生にとっては、なんとも残酷な知らせです。今日の句は、めでたく会社に入った若者を詠んでいます。酒造会社に勤め始めたその初日に、用意された新しい法被を着て、現場に集合しているところでしょうか。製造過程を知らなければ、事務だって営業だって仕事にならないのだという、先輩の説明を緊張して聴いているのでしょう。晴れてはいるけれども、風はまだ冷たく感じられます。これからここで人生の大切な部分を過ごすのだと、思えば風の冷たさのせいだけではなく、胸も小刻みに震えてきます。『新日本大歳時記 春』(2000・講談社)所載。(松下育男)




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