小沢センセイ、辞意撤回。この人の行き方はよくわからん。せいぜい頑張りや。(哲




2007ソスN11ソスソス7ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

November 07112007

 秋風や甲羅をあます膳の蟹

                           芥川龍之介

書に「室生犀星金沢の蟹を贈る」とある。龍之介と仲良しだった犀星が越前蟹でも贈ったものと思われる。夏の蟹のおいしさも侮れないけれども、秋風が吹く向寒の季節になると、蟹の身が一段とひきしまっておいしさを増す。食膳にのった蟹は大きいから、皿からはみ出してワンザとのっている。越前蟹は脚が長いので、甲羅が大きければなおのこと大きい。蟹の姿がいかにも豪快な句である。外は秋の風が吹きつのっているのだろうが、視線は膳の上にのった蟹に注がれて釘付けになり、思わず「おお!」と感嘆の声をあげているにちがいない。北陸の秋の厳しい海のうねりが、膳の上にまで押し寄せてきているようだ。贈り主に対する感謝の思いもそこに広がっている様子が、「甲羅をあます」に見てとれる。同時に「・・・・あます」の一語によって、まだ生きているかのように蟹のイキのよさも感じられる。蟹をていねいにほじりながら、犀星のことを思ったりして、酒も静かに進む秋の夕餉であろう。私事で恐縮だが、新潟の寺泊へ出かけると、必ず蟹ラーメンを好んで食べる。ズワイガニがまたがる姿で、ワンザとのったラーメンが運ばれてくる。食べる前にしばし目を細めて堪能する一時はたまらない。龍之介の句も、まずは堪能しているのだろう。秋風といえば「秋風や秤にかゝる鯉の丈」という一句もならんでいる。いずれも、食べる前に目でじっくり味わって、「さあて、食うぞ!」という気持ちが伝わってくる。『芥川龍之介句集 我鬼全句』(1976)所収。(八木忠栄)


November 06112007

 布団より転げ落ちたる木の実かな

                           白濱一羊

け方、猫が布団に入ってくるようになると、いよいよ秋も深まったなぁと実感する。体温であたたまった布団の中は、なにものにもかえがたい愛おしい空間である。見ていた夢の尻尾をつかまえようともう一度目をつぶってみたり、外の雨の音に耳を澄ましてみたり、なんにもしない時間がふわふわと頭上に平らに浮かんでいるのをぼんやり眺めているような、贅沢なひとときである。とまれ、これはまだ夢ともうつつともつかない半睡半醒の状態である。一日の始まりは布団をぱっとはねのけ、立ち上がるところからであろう。この行為により、夢の世界は遠くの過去のものとなり、頭は現実的な手順と段取りへと切り替わる。そんなスイッチが完了したという時に、布団からぽろりと木の実がこぼれ落ちた。こんなところにあるはずのない木の実。まるで過去へと引き戻す扉の隙間から、わずかに光りが漏れているのを見つけてしまったような、奇妙な気持ちにとらわれることだろう。宮沢賢治の『どんぐりと山猫』で、裁判のお礼に一郎が山猫からもらったひと枡の黄金のどんぐりは、家が近づくにつれ、みるみるあたりまえの茶色のどんぐりに変わっていたのだったことなども、胸をよぎる。夢の種…。今日やらなければならないことは全て忘れて、閉まりかけている扉へと引き返したくなる朝である。『喝采』(2007)所収。(土肥あき子)


November 05112007

 影待や菊の香のする豆腐串

                           松尾芭蕉

蕉の句集を拾い読みしているうちに、「おっ、美味そうだなあ」と目に止めた句だ。前書に「岱水(たいすい)亭にて」とある。岱水は蕉門の一人で、芭蕉庵の近くに住んでいたようだ。「影待(かげまち)」とは聞きなれない言葉だが、旧暦の正月、五月、そして九月に行われていた行事のことである。それぞれの月の吉日に、徹夜をして朝日の上がるのを待つ行事だった。その待ち方にもいろいろあって、信心深い人は坊さんを呼んでお経をあげてもらうなどしていたそうだが、多くは眠気覚ましのために人を集めて宴会をやっていたらしい。西鶴の、あの何ともやりきれない「おさん茂兵衛」の悲劇の発端にも、この影待(徹夜の宴会)がからんでいる。岱水に招かれた芭蕉は、串豆腐をご馳走になっている。電気のない頃のことだから、薄暗い燈火の下で豆腐の白さは際立ち、折りから菊の盛りで、闇夜からの花の香りも昼間よりいっそう馥郁たるものがあったろう。影待に対する本来の気持ちそのままに、食べ物もまた清浄な雰囲気を醸し出していたというわけである。その情況を一息に「串」が「香」っていると言い止めたところが、絶妙だ。俳句ならでは、そして芭蕉ならではの表現法だと言うしかないだろう。それにしても、この豆腐、美味そうですねえ。『芭蕉俳句集』(1970・岩波文庫)所収。(清水哲男)




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