子供の頃の短冊には「天の川」や「星」くらいで、具体的な願いは書かなかった。(哲




2007ソスN7ソスソス7ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 0772007

 いつまでもひとつ年上紺浴衣

                           杉本 零

人は家が近所の幼なじみで、一緒に小学校に通っていた。その頃のひとつ違い、それも、男の子が一つ下、となると、精神年齢はもっと違う。彼女が少し眩しく見え始めた頃、彼女の方は、近所の悪ガキなどには見向きもしない。あらためて年上だと認識したのは、彼が六年生になった時だった。彼女は中学生になり、一緒に登校することはもちろん、学校で見かけることもなくなって、たまにすれ違う制服姿の彼女を見送るばかりである。彼も中学生から高校生に、背丈はとっくに彼女を追い越したある夏の夕方、涼しげな紺色の浴衣姿の彼女を見かける。いつもとどこか違う視線は、彼に向けられたものではない。彼はいつまでも、ひとつ年下の近所の男の子なのだった。二つ違いの姉を持つ友人が、「小学生の頃から、姉は女なのだから、男の僕が守らなきゃ、と思っていた。中学生の時、高校生の姉が夜遅くなると、駅まで迎えに行った。」と言ったのを聞き、あらためて男女の本能的性差のようなものを感じつつ、兄弟のいない私は、うらやましく思った。この句は、作者が句作を始めて十年ほど経った、二十代後半の作。紺色の浴衣を涼しく着こなした女性の姿から、男性である作者の中に生まれたストーリーは、また違うものだったろう。その後三十代の句に〈かんしゃくの筋をなぞりて汗の玉〉〈冷かに心の舵を廻しけり〉『零』(1989)所収。(今井肖子)


July 0672007

 落蝉の眉間や昔見しごとく

                           山口誓子

ちて転がっている蝉を拾い、その眉間(みけん)に見入る。ああ、昔見たようだとふと思う。そういう句だ。「見し」ではなくて「見しごとく」なので、はっきり記憶にあるわけではない。見たような感じがするということ。この句を郷愁の句ととることも出来る。蝉捕りをした頃の「昔」の回想。それにしても、蝉の眼と眼の間の距離、色彩、形状。どこにも従来の郷愁的、俳句的情緒のかけらもない。芭蕉の「さまざまのこと思ひ出す桜かな」あたりが一般的抒情のお手本になったからみんな花鳥風月の桜や鶯や風や月の抒情を利用して回顧のシーンや心情に移行するわけだ。ここにはその「典型」がない。日常の瞬間の即物的風景を入口にして、そこから個人的体験へ入っていく。僕はこの句に既視感(デジャ・ブ)をみる。死んだ蝉の眉間にぐんぐん接近するにつれて、カメラは存在の不安ともいうべきものを映し出す。「昔見たような感じ」から「自分がここにこうして在る不思議」へと至るのだ。このカメラワークには世界のクロサワもかなわない。俳句形式でなければ描けない固有の衝撃力がここにはある。存在の不安は即物非情と称せられる誓子作品に一貫しているものであって、それは子規が発案したときに「写生」という方法がもともと持っていた最大の特徴というふうに僕は思うのだが。『遠星』(1947)所収。(今井 聖)


July 0572007

 湧く風よ山羊のメケメケ蚊のドドンパ

                           渡辺白泉

山明宏が銀座のシャンソン喫茶『銀巴里』にデビューしたのは17歳のときだった。そして1957年、日本語版『メケメケ』で人気を博した。『メケメケ』はそれがどうしたっていうのだ。と、いうフランス語の最初の2音を連続させたものらしい。『ヨイトマケの唄』を雄々しく歌った青年は『黒蜥蜴』で妖艶な女性に変貌した後、現在の姿と相成ったが、そんな未来を40年前は知る由もなかった。「山羊のメケメケ」は白面の美少年を相手に山羊がメケメケを歌っているとでもいうのか。「ドドンパ」は最近では氷川きよしが歌っていたが、1961年に流行った『東京ドドンパ娘』が元祖だとか。都都逸とルンバを組み合わせたところからこういう呼び名が生まれたようだ。そう言われてみれば膝を軽く折り曲げ腰を落とす踊りの格好が血を吸う蚊とちょっと似ている。そんな憶測や意味づけをはねのけるように、口語口調の言葉のリズムは明るく楽しい。だがこの句には店先や家のラジオから風に乗ってやってくる流行歌、やがては消えてしまう歌に猫も杓子も浮かれかえるバカバカしさへの風刺が感じられる一方、そんな流行のはかなさを哀れに思う気持ちが上五の「湧く風よ」の呼びかけに滲んでいる。60年代といえば「もはや戦後ではない」と、日本の高度成長が開始する時期。戦後、俳壇から遠く距離を置いた白泉ではあったが、見かけの上昇に欺かれることなく現実を見つめ、時代の言葉で切って返す力は衰えてはいない。『渡邊白泉全句集』(1984)所収。(三宅やよい)




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