遅れていたヨドバシ吉祥寺店が本日やっと全館オープン。当初は込み合いそうだ。(哲




2007ソスN7ソスソス6ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 0672007

 落蝉の眉間や昔見しごとく

                           山口誓子

ちて転がっている蝉を拾い、その眉間(みけん)に見入る。ああ、昔見たようだとふと思う。そういう句だ。「見し」ではなくて「見しごとく」なので、はっきり記憶にあるわけではない。見たような感じがするということ。この句を郷愁の句ととることも出来る。蝉捕りをした頃の「昔」の回想。それにしても、蝉の眼と眼の間の距離、色彩、形状。どこにも従来の郷愁的、俳句的情緒のかけらもない。芭蕉の「さまざまのこと思ひ出す桜かな」あたりが一般的抒情のお手本になったからみんな花鳥風月の桜や鶯や風や月の抒情を利用して回顧のシーンや心情に移行するわけだ。ここにはその「典型」がない。日常の瞬間の即物的風景を入口にして、そこから個人的体験へ入っていく。僕はこの句に既視感(デジャ・ブ)をみる。死んだ蝉の眉間にぐんぐん接近するにつれて、カメラは存在の不安ともいうべきものを映し出す。「昔見たような感じ」から「自分がここにこうして在る不思議」へと至るのだ。このカメラワークには世界のクロサワもかなわない。俳句形式でなければ描けない固有の衝撃力がここにはある。存在の不安は即物非情と称せられる誓子作品に一貫しているものであって、それは子規が発案したときに「写生」という方法がもともと持っていた最大の特徴というふうに僕は思うのだが。『遠星』(1947)所収。(今井 聖)


July 0572007

 湧く風よ山羊のメケメケ蚊のドドンパ

                           渡辺白泉

山明宏が銀座のシャンソン喫茶『銀巴里』にデビューしたのは17歳のときだった。そして1957年、日本語版『メケメケ』で人気を博した。『メケメケ』はそれがどうしたっていうのだ。と、いうフランス語の最初の2音を連続させたものらしい。『ヨイトマケの唄』を雄々しく歌った青年は『黒蜥蜴』で妖艶な女性に変貌した後、現在の姿と相成ったが、そんな未来を40年前は知る由もなかった。「山羊のメケメケ」は白面の美少年を相手に山羊がメケメケを歌っているとでもいうのか。「ドドンパ」は最近では氷川きよしが歌っていたが、1961年に流行った『東京ドドンパ娘』が元祖だとか。都都逸とルンバを組み合わせたところからこういう呼び名が生まれたようだ。そう言われてみれば膝を軽く折り曲げ腰を落とす踊りの格好が血を吸う蚊とちょっと似ている。そんな憶測や意味づけをはねのけるように、口語口調の言葉のリズムは明るく楽しい。だがこの句には店先や家のラジオから風に乗ってやってくる流行歌、やがては消えてしまう歌に猫も杓子も浮かれかえるバカバカしさへの風刺が感じられる一方、そんな流行のはかなさを哀れに思う気持ちが上五の「湧く風よ」の呼びかけに滲んでいる。60年代といえば「もはや戦後ではない」と、日本の高度成長が開始する時期。戦後、俳壇から遠く距離を置いた白泉ではあったが、見かけの上昇に欺かれることなく現実を見つめ、時代の言葉で切って返す力は衰えてはいない。『渡邊白泉全句集』(1984)所収。(三宅やよい)


July 0472007

 一生の幾百モ枕幾盗汗

                           高橋睦郎

みは「いっしょうの/いくももまくら/いくねあせ」。私たちは一生かかって、どれだけあまたたび(幾百・幾千回)枕のお世話になるのだろうか。どれだけ幾たびかの盗汗をかくのだろうか。盗汗ばかりでなく、熱い汗や冷汗もどれだけ流すことになるのか。――多い人、少ない人の違いはあれども、それが人の一生。私たちは日頃、あまりそんなことを改まって考えることはないけれど、日本語にはさすがに「枕」を冠した言葉がおびただしい数ある。枕詞、枕木、枕絵、北枕、枕経、箱枕、膝枕、枕時計、枕元、枕頭、夢枕・・・・。枕は私たちの喜怒哀楽をさまざまに彩ってくれる。この枕に着目した睦郎の新連載「百枕」が「俳句研究」7月号から始まった。興味をそそられる連載の冒頭は「私たちが毎日用いる道具でありながら、その名の語源のもう一つ明解でないものの一つに、枕がある」と書き出されている。おっしゃるとおりである。その語源については、マクラ(間座)、アタマクラ(頭座)、マクラ(目座)、マク(枕)、マク(巻)、マキクラ(纏座)、マクラ(真座)等々の語義(『日本国語大辞典』)もそこで紹介されている。「枕」そのものは季語ではないけれど、「籠枕」や「枕蚊帳(蚊帳)」となれば夏の季語となる。睦郎は連載第一回を「籠枕」と題し、「籠枕百モの枕の手はじめに」と冒頭で挨拶し、「ふるさとは納戸の闇の籠枕」など10句を試みている。「俳句研究」(2007年7月号)所載。(八木忠栄)




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