花屋では春の花が満開。花屋の季節先取りに、この冬はまったく違和感を感じない。(哲




2007ソスN2ソスソス17ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 1722007

 野火ふえて沼の暦日俄かなる

                           石井とし夫

べりの春の到来を端的に教えてくれるのが野火のけむりである、と句集末尾の「印旛沼雑記」にある。「総じて野焼き、野火と言っているが小野火、大野火、夕野火、夜野火等々野火にも畦火にもその時々に違った趣がある」とも。印旛沼(いんばぬま)は千葉県北西部に位置し、その大きさは琵琶湖の約六十分の一、内海がふさがって沼となって千年という。作者はこの印旛沼と利根川に挟まれた町で生まれ育ち、その句は、句作を始めた二十代から八十三歳になられる現在まで、ずっと四季折々の沼の表情と共にある。野焼きは、早春に野の枯れ草などを焼くことで、野火はその火。木枯しに洗われて青く張りつめていた空が少し白く濁り、風もゆるんでくる頃、遠くに野焼きのけむりが立ち始める。枯れた田や畦を焼き、沼周辺の枯蘆を焼き、農耕や漁に備えるそのけむりが増えてくることに、作者は春の胎動を感じている。中七下五の省略のきいた表現が、春に始まる沼の暮らしが俄かに動き出す、と言った意味ばかりでなく、冬の間は水鳥を浮かべ眠っている、沼の静けさをも感じさせる。〈沼の雑魚良夜に育ちをるならむ〉〈鳰沈みひとりひろがりゐる水輪〉〈梅一枝抱かせて妻の棺を閉づ〉そこにはいつも、穏やかで愛情深い確かな眼差しがある。『石井とし夫句集』(1996)所収。(今井肖子)


February 1622007

 骰子の一の目赤し春の山

                           波多野爽波

規の提唱した「写生」と虚子が言った「花鳥諷詠」の違いは、前者が「写すこと」の効果を提唱したのに対して、後者は俳句的情緒を絶対条件としたこと。だから後者は「写生」ではなくて、俳句的ロマンを旨としたと言った方がいい。いわゆる神社仏閣老病死がその代表的な例。ところが虚子の弟子にも変人は出るもので、虚子先生が情緒を詠めと言っておられるのに、情緒などお構いなしに、しっかりと「写す」ことを実行した俳人がいる。高野素十とこの爽波がそれである。作る側が情緒を意図せずとも、「もの」をそこに置けば、勝手に「もの」が動いて「感動」を作り出す。「もの」の選択に「俳句的素材」などという判断は不要、それが俳句という短詩形の特殊な在り方を生かす方法、つまり「写生」であると理解するに到った変り種である。その理屈で出発すると、論理は、では「写す」ことと季語はどう関わるのかというところに行かざるを得ない。季語と写生は必然的な結びつきなのかという疑問も出てくる。しかし、素十も爽波も季語は捨てない。「もの」の選択の範囲を広げた分、情緒を季語に依存しようとしたのか。骰子(サイコロ)の一の目が赤く大きく目を瞠り、そのイメージに春の山の景を被せる。「赤し」と春が色彩として同系。サイコロの存在感が山と呼応する。爽波のような反情緒の「もの」派も、そこのところで「季語の恩寵」を言うんだろうなあ。『骰子』(1986)所収。(今井 聖)


February 1522007

 薄氷をひらりと飛んで不登校

                           清水哲男

水さん、お誕生日おめでとうございます。一年に一度、清水さんの自句自解を毎年とても楽しみにしていたのですが、残念ながら今日は木曜日(笑)。後日の自句自解を期待して私の好きな清水さんの句を採り上げさせていただきます。薄氷(うすらい)は寒気のもどりに薄々と張る氷。「はくひょう」と読めば、極めて危険な状況にのぞむ「薄氷をふむ」へと繋がってゆきます。季語の「うすらい」とともに、その意も踏まえられているのでしょうね。学校へ行ってもクラスになじめない。いじめやからかいも怖い。そんな重苦しい思いを抱えたまま登校して自分を追い込むより、ひらりと身をかわして好きな場所を見つけなよ。と掲句は「不登校のススメ」のように思えます。清水さんは学校がきらいだったようで「十数年前、娘の学校のPTA役員をおおせつかったときも、会合のための教室へ入ったとたん吐き気をもよおしたほどだ」(『現代詩つれづれ草』より引用)と、書き留めていらっしゃいます。そういえば、公立学校は黒板の位置。天井の蛍光灯の明るさ、教卓の高さにいたるまで文部省の通達で決められているらしいですね。そんなに学校が嫌だったのに一日も休まなかったとか。負けん気の強い清水さんのこと。嫌いだからこそ意地でも通い続けたのかもしれませんね。去年から学校をめぐる暗いニュースが続いています。学校が世知辛い場所になればなるほど、清水さんのこの句が優しい呼びかけのように思えます。『打つや太鼓』(2003)所収。(三宅やよい)




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