昨日(元日)はご迷惑をおかけしました。増俳10年構想でのプログラミングだったので。(哲




2007ソスN1ソスソス2ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 0212007

 初湯にて赤子うら返されてをり

                           酒本八重

ん坊の身体はとらえどころなく、とめどなくやわらかい。そのぐにゃぐにゃした小さな形を「うら返す」というやや乱暴な言葉で、一層の愛情を表現し得た。初湯とは、銭湯の営業が正月2日からだったことに由来し、「初湯に入ると若返る」などといわれ、朝から繁盛していたようである。今年最初の湯に浸かり、顔なじみと裸の挨拶をすることは、なんとも風呂好きの日本人らしい習わしである。しかし、現代の句である掲句は、ベビーバスか、またはごく一般的な家庭の風呂でのことだろうが、心身を清く健やかに保つ初湯の謂れを大切に、赤ん坊のための適度な加減へと細心の注意をほどこされているものに違いない。あたたかい湯をまんべんなくかけられ、うら返されている当人は、相変わらず無防備にきょとんとした様子である。慈しみに包まれ誕生した者だけが持つ、うっとりと安心しきったその表情こそ、なにものにもかえられない宝であろう。手のひらに乗せられ、つやつやと濡れて輝く桃色の命が、次の世代を引き継いでいく。ひとつの家族の系譜とは、こうした手応えを持って、まさしく手から手へ渡されていくものなのだろう。酒本八重『里着』(2005)所収。(土肥あき子)


January 0112007

 校舎なき校歌の山や初景色

                           七沢実雄

日に変わらぬ景色ではあるが、元日に見る景色(初景色)はどこか違う。新しい年がはじまったという意識、そこから来る清新の気が、見慣れた景色を新しく塗り替えるからとでも言うべきか。眺めているうちに、作者は遠くの山が、いまは廃校となってしまった学校の校歌に詠み込まれていたことを思い出している。つづいて、一緒に学び遊んだ友人たちや先生とのことどもを懐かしんでもいるのだろう。自分はずっとこの過疎の地で暮してきたが、多くの友だちは都会に出ていった。音信不通の友人も少なくない。「みんな、元気にしてるかな」。私の通った故郷の小学校も中学も廃校になってしまっている。小学校は明治期にできた伝統のある学校だったけれど、過疎には耐えきれず、ついに無くなったことを知らされたときにはショックだった。もはや校歌もよくは覚えていないが、山の名前はあったのかなかったのか。あったとすれば元日の今日、故郷の友人の誰かは、作者と同じ心境でその山なみを見ているかもしれない。近年の新しい校歌は、土地の名や山や川を詠み込むことを嫌うようだが、それだけ自然との距離が遠くなった証左だろう。啄木ではないが、故郷の山河には圧倒的な存在感がある。貧しい時代に貧しい暮らしを余儀無くされた土地だったけれど、私はそこで育ったことを幸せに思う。故郷の地の諸君、明けましておめでとう。今年も元気でな。『現代俳句歳時記・冬』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)


December 31122006

 年こしや余り惜しさに出てありく

                           立花北枝

うとう2006年も最後の日になりました。首相が変わり、北朝鮮が核を持ち、知事が次々と逮捕され、WBCで日本が優勝しと、さまざまなことがあった2006年も、もうすぐ終了します。やっと慣れてきた2006という数字も、あまり使われなくなり、目にあたらしい2007という文字を、明日からは書くことになるわけです。掲句、その年が終わるのが惜しくて、外を歩きまわってしまうという意味です。江戸時代に金沢の地で刀研ぎ商という職を持った北枝も、大晦日はいつものように朝から、刀に向かっていたのでしょうか。時刻が進むうちに、目は刀の光へ吸い込まれ、見つめる先は、自分という生命のあり方の方へ向かっていったものと思われます。「大切な時」、というものに突き動かされ、急に立ち上がって履物を履き、戸を開けて、ともかくも外の通りに出てきたのでしょう。いつもと違わない町並みに、けれど人々は、武士も町人も、男も女も、確かにこの日の厳粛さを身にまとって通り過ぎて行きます。時の区切り目を迎えるということがみな、切なくもあり、うれしくもあるのです。その気持ちは、平成の世になってもまったく変わらず、句にこめられた生命の厳かな焦りは、今にもしっかりと伝わってきます。残るはあと一日です。年が明ければ、たっぷりとした時間が待っていることはわかってはいても、残されたこの一日を、どのように大切に過ごすかを、わたしも考えてみたいと思います。では、2007年がみなさまにとって、とても良いものになりますように。『角川俳句大歳時記 冬』(角川書店・2006)所載。(松下育男)




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