なくしたコンタクトが二日ぶりに見つかった。こいつは縁起が良い。阪神、がんばれ。(哲




2006ソスN8ソスソス29ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 2982006

 花茗荷きょうが終ってしまいけり

                           宇咲冬男

の長い残暑もようやくその尾を巻き取ろうとしている。ひと筋の風が頬に触れ 、蜩の声が聞こえると、どこか遠くで準備されていた秋が、すぐそこに近づいてきたのだと気づく。新しく巡る季節のなかで、秋の始めをことさら意識するのは、夏が力づくでやってきて、まるで終わることなど考えられないような激しさで毎日を攻めたてていたからだ。力のあるものの終わりを見つめることの悲しみが、秋の始まりにはある。一日が「終わる」のではなく「終わってしまう」という掲句もまたこの時期ならでは焦燥感が込められている。さらに「けり」の切れ字によって、自分ではいかんともしがたい圧力が加わり、途方に暮れる気持ちが一層強まる。茗荷の花という一般にあまり馴染みのない花の、地面からいきなり突き出る唐突とさえ思えるような形が、作者のとりとめのない心情にぴったりと寄り添い、はかなく美しい秋を象徴しているようだ。永遠に続くと思っていた夏休みもあと三日。たっぷり残った宿題を前に呆然としていた小学生時代こそ、今日が終わってしまうことにすがるような心地であったことをふと思い出す。『塵劫』(2006)所収。(土肥あき子)


August 2882006

 月見草木箱のラジオ灯りけり

                           小澤 實

の出ころに咲くので「月見草」。朝になると、しぼんでしまう。以前にも書いたことだが、私は月見草をそれと意識して見たことはない。しかも、数年前までは黄色い花の「待宵草(まつよいぐさ)」と混同していた。月見草の花は白色だという。図鑑の写真を見ても、見たことがあるようなないような‥‥。同じ夜咲く花でも、月下美人のように豪奢な感じはかけらもないので、見たことがあっても名前まで知ろうとは思わなかったのだろう。そんな花は、他にもいっぱいある。夏の季語だ。そういうことはさておいても、揚句は理解できる。とりたてて新味もない句だが、昔のラジオ少年としては、たまらない懐かしさに誘われた。そうだった、ラジオはみんな木箱に内蔵されていた。夕方、学校から戻ってきて、聴きたい番組のあるときはスイッチをひねる。現代のそれとは違い、当時は真空管方式だったから、すぐには音が聞こえてこない。しばらく待つうちに、ブーンというノイズとともに聞こえてくるのだ。この感覚が、まさに「灯る」なのである。ラジオも灯り、月見草も灯るころに、聞こえてくる番組は「笛吹童子」か「一丁目一番地」か、はたまた民放の「赤胴鈴之助」あたりだろうか。そんなことを思っていると、しばし世の中のとげとげしさを忘失することができた。ところで、作者は1956年の生まれだ。物心のついたころには、既に木箱のラジオは珍しかったのではあるまいか。だとすれば、私は新味のない句と思ったけれど、作者の世代にとって「木箱のラジオ」はむしろ新鮮に感じられるのかもしれない。すると、句の解釈はかなり異なってくるが、まあ、私は私なりに読んだということで。「俳句研究」(2006年9月号)所載。(清水哲男)


August 2782006

 毀れやすきものひしめくや月の駅

                           小沢信男

語に「fragile」という単語があります。この語には「壊れやすい、もろい」のほかに、「はかない、危うい」という意味もあります。通常は運搬時、小包の中身が壊れやすいと思われる場合にこの単語が使われるのですが、場合によっては「人」を表現するためにも使います。たしかに人というものは、自分の容器を壊れないように、あるいは中身がこぼれないように、日々注意して運んでいるようなものです。人をひとつの壊れやすい容器と見ることは、俳句を通した日本独特の感じ方ではなくて、英語圏にもあるようです。おそらくどこの国の人も、自分が容易に壊れてしまうものであることを知っているのです。掲句は、「実妹伊藤栄子を送る追悼十句のうち」の一句で、前書に、「通夜へ、人身事故により電車遅延」とあります。肉親の生命の消失によって、作者は強く心を揺り動かされています。そこへ、電車が遅れるというあまりにも日常的な出来事が割り込んできます。その日常の出来事でさえ、人身事故という人の生死につながっています。駅の上空の月は、それら生きるもの死ぬものをへだてなく、広く照らしています。目の前にひしめく多くの見知らぬ乗降客でさえ、月の光に個々の生命をくっきりと照らし出されて、作者の目の前を通過してゆきます。この駅は、日常と非日常、生きることと死ぬことの、乗換駅ででもあるかのようです。『新選俳句歳時記』(1999・潮出版社)所載。(松下育男)




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