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May 1052006

 裏口にいつも番犬柿の花

                           いのうえかつこ

語は「柿の花」で夏。まだ少し早いかもしれないが、関東あたりではそろそろ咲きはじめてもよい頃である。さて、いつ通りかかっても、ひっそりとしている家がある。我が家の近所にもある。番犬がいるのだから、誰かは住んでいるのだろうけれど、日常的にあまり人の気配というものが感じられない。昼間は家族がみんな外出しているのか、あるいは老夫婦あたりが静かに暮らしているのだろうか。なんとなく、気になる。そして、この番犬はいつも退屈そうにうずくまっているような感じだ。傍を通っても、べつだん吠えるでもなく睨みつけるでもない。といって愛想良く尻尾を振るでもないという、いささか覇気に欠ける犬なのだろう。もう、相当な年寄り犬なのかもしれない。そんな番犬のいる裏庭に、今年も「柿の花」が咲きはじめた。地味な花である。黄色がかった小さな白い花が、枝々の葉の根元に点々と見え隠れしている。この地味な花と気力の無い犬と、そして裏口と……。これだけの取り合わせから、この家のたたずまいのみならず、近所の情景までもが浮き上がってくるところに、掲句の妙味と魅力がある。さらりとスケッチをしただけなのに、この句の情報量はかなりのものだ。俳句ならではの力があり、作者もよくそのことを承知して詠んでいる。『馬下(まおろし)』(2004)所収。(清水哲男)


June 1262009

 柿の花こぼれて久し石の上

                           高浜虚子

の小さな柿の花がこぼれて落ちて石の上に乗っている。いつまでも乗っている。「写生」という方法が示すものは、そこから「永遠」が感じられるということが最大の特徴だと僕は思っている。永遠を感じさせるカットというのはそれを見出した人の眼が感じられることが第一条件。つまり「私」が見たんですよという主張が有ること。第二にそこにそれが在ることの不思議が思われること。これが難しい。川端茅舎の「金剛の露ひとつぶや石の上」は見事な句と思うが露の完璧な形とその危うさ、また露と石の質感の対比に驚きの目が行くために露がそこに在ることの不思議さとは少し道筋が違う気がする。それはそれでもちろん一級の写生句だとは言えようが。どこにでもある柿の花が平凡な路傍の石の上に落ちていつまでもそこにある。この句を見るたび、見るかぎり、柿の花は永遠にそこに在るのだ。『ホトトギス季題便覧』(2001)所収。(今井 聖)


May 1052015

 用もなき母の電話や柿の花

                           荻原正三

間の関係の中でも、息子と母親との関係は特別です。胎児として母体の中にいるときは、完全な従属関係にあります。誕生後の一年間もほぼそれに等しく、保育園や幼稚園に通うようになって、少しずつ外の人間関係をもてるようになっていきますが、小学校に上がる頃までは、おおむね、母親に従属していたい願望は強いものです。ところが、息子が思春期を迎え、青年、成人、老人と年齢を重ねるにしたがって、母親を一個の他者として見ていくようになります。その関係性は母親に対する呼称に 顕著に表れていて、私の場合は、「ママ、和子さん、おふくろ、おふくろさん」。ちなみに父親の場合は、「パパ、おやじっこ、おやじ、おやじさん」。こう振り返ると、思春期の親子関係は揺らいでいたんですね。「おふくろさん、おやじさん」と「さん」づけできるようになって、ようやく親子関係もふつうの人間関係に伍するものになってきたようです。私の場合「ママ、パパ」から始まったので「さん」づけできるようになるまでに二十年以上かかりました。幼少の頃、甘えん坊だった息子は、思春期には従属関係を脱して、対等な人間関係を目指すようになりました。さて、掲句は作者六十歳前後の作品で、切れ字の「や」には軽い嘆きがあり、共感します。おおむね母親は用もない電話をする存在で、こ ちらが忙しいときは甚だ迷惑です。母親がもっている息子像は、胎児であったときの記憶をふくんで理想化されているのに対し、息子がもつ母親像は、理想から出発しているゆえにしぼんでいくしかない面があります。だから、息子が齢を重ねるほどに、反りが合わなくなる場合もでてくるのでしょう。もちろん、世間には、大野一雄や永田耕衣のように生涯にわたって母を慕いつづけた息子もたくさんいます。われわれを一般的と思ってはいけません。ところで、下五を「柿の花」で終えているのも侘しい気がします。柿の花は黄白色の壺型で、葉の陰から地面に向けてうつむくように咲きます。俳人でもなければ、この花に心を寄せる人は少ないでしょう。しかし、この花があればこそ秋には柿が実ります。そう 考えると母の日の今日、おふくろさんありがとう。『花篝』(2008)所収。(小笠原高志)




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