新緑のなかを行く赤旗は美しい。未組織労働者としては、せめてそれだけでも見に行こう。




2006ソスN5ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 0152006

 制帽を正すメーデーの敵視あつめ

                           榎本冬一郎

語は「メーデー」で春。言わずとしれた労働者の祭典だ。日本では、1920年(大正九年)に上野公園で行われたのが最初である。掲句は警官の立場から詠んだ句で、まだ「闘うメーデー」の色彩の濃かったころの作句だ。現在のメーデーはすっかり様変わりしてしまい、警官の側にもこうした緊張感は薄れているのではあるまいか。変わったといえば、連合系のようにウイークデーの五月一日を避ける主催団体も出てきた。メーデー歌にある「全一日の休業は、社会の虚偽を打つものぞ」の精神を完全に見失ったという他はない。リストラに継ぐリストラを無策のままにゆるし、先輩たちが獲得した五月一日の既得権までをも放棄した姿は、現今の労働者の実際にも全くそぐわないものだ。むろん警官も労働者だが、せめて警官が「制帽を正す」ほどの緊張感のあるメーデーにすべきであろう。戦後すぐのNHKラジオが、メーデー歌の指導までやったという時代が嘘のようだ。宮本百合子の当時の文章に、こうある。「メーデーの行進が遮るものもなく日本の街々に溢れ、働くものの歌の声と跫足とが街々にとどろくということは、とりも直さず、これら行進する幾十万の勤労男女がそれをしんから希望し、理解し実行するなら、保守の力はしりぞけられ、日本もやがては働く人民の幸福ある国となる、その端緒は開かれたということではないだろうか」。いまとなっては、このあまりに楽天的な未来への読みの浅さが恨めしくなってくる。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)


April 3042006

 春落葉病めば帰農の悔つのる

                           斎藤惣弥

語は「春落葉」。「落葉」といえば冬の季語だが、これは春になってから木々の葉の落ちること。常磐木(ときわぎ)の古葉などが、ほろほろと落ちる。華やかな春に感じられる侘しさである。作者は一度農業を捨てて、都会で働いていた。が、何らかの事情があって、再び故郷に戻り農業に就いたのである。都会に出たのは、元来が病弱だったためかもしれない。それが一大決心をして「帰農」したのだったが、激しい労働がたたってか、病いを得てしまった。農業が体力勝負であることは、サラリーマンのそれの比ではない。とりわけて農繁期に寝込んでしまうようなことがあったら、季節は待ってくれないから、その年の前途は絶望的である。「やっぱり、俺に帰農は無理だったか」。悔いて事態が動くわけでもないけれど、焦る気持ちのなかで、ますます「悔つのる」ばかりだ。健康なときには気にも止めなかった「春落葉」が、我が身心の痛みに重なって見え、やけに侘しい。最近では「定年帰農」などとと言い、定年退職後にサラリーマンから農業に転ずる人が増えているようだが、この場合は病いも大敵だが、老いの問題もあなどれない。私の田舎の友人はみな農業のプロだけれど、老いに抗して働くことの辛さは相当なもののようだ。農作業が機械化されたとはいっても、たとえばその機械を山の上の畑に運び上げるのには人力が必要である。それが、加齢とともに苦しくなってくる。農業の楽しさばかりが語られる昨今だが、資本である身体の病いや老いについても、掲句のようにもっと語る必要があるだろう。『俳諧歳時記・春』(1968・新潮文庫)所載。(清水哲男)


April 2942006

 個展より個展へ銀座裏薄暑

                           鷹羽狩行

語は「薄暑(はくしょ)」で夏。初夏の候の少し暑さを感じるくらいになった気候を言うが、四月中旬ごろから「薄暑」を覚えることは多い。銀座は画廊の多い街だ。一丁目から八丁目まで、おそらく二百廊以上はあるのではなかろうか。とくに銀座裏の通りの一画には、軒並みにひしめいていると言っても過言ではない。そんなにあるのに、よく商売になるなと感心させられてしまうが、それほどに銀座は昔から、裕福な好事家や趣味人が集まる土地だったというわけだ。私のサラリーマン第一歩は芸術専門誌の編集者だったので、銀座にはよく通った。掲句のように「個展から個展へ」とネタ探しに歩き回り、若かったにもかかわらず、あまりの画廊の多さに辟易したことを覚えている。句の作者は、むろんネタ探しなどではなく、楽しんで見て回っているのだ。ひんやりとした画廊を出て、また次の画廊へと向かう。とりわけてこれからの季節は、この間の「薄暑」がとても嬉しく感じられる。おあつらえ向きに「銀座の柳」の新緑でも目に入れば、気分はますます良くなってくる。「画廊から画廊へ」と詠み出した軽快なテンポが、作者の上機嫌を見事に描き出していて心地よい。私だったら、しばらく見て回った後は、天井の高い「ライオン」の本店で生ビールといきたいところだけれど、このときの作者はどうしたのだろう。ああ、久しぶりに銀座に出かけたくなってきた。『地名別鷹羽狩行句集』(2006)所収。(清水哲男)




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