ロボットがおぼれた人を助けたり、高齢者の食事の介助をしたり…。二十年後のお話です。




2006ソスN4ソスソス16ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

April 1642006

 春夕好きな言葉を呼びあつめ

                           藤田湘子

語は「春夕(はるゆうべ)」、「春の暮」に分類。一年前(2005年4月15日)に亡くなった作者の最晩年の句である。そう思って読むせいか、どこか寂しげな感じを受ける。あまやかな春の宵を迎える少し前のひととき、病身の作者がひとりぽつねんといて、「好きな言葉を呼びあつめ」ているのだ。長年にわたる俳句修業ののちに、心の内をまさぐって呼びあつめた好きな言葉とは、どんな言葉だったのだろうか。その数は多かったのか、あるいは逆に寥々たるものだったのか。いずれにしても、この句は作者の意図がどうであれ、老いの切なさをはからずも露出していると思われる。またふんわりとした詠み方ではあるが、最期まで言葉に執した人の鬼気も、いくぶんかは含まれているだろう。読後ふと、ならば読者である私に、好きな言葉はあるだろうかと思わされた。しばらく考えてみて、いまの私にそのような言葉は一つも呼べなかった。若い頃にはいくらもあった好きな言葉は、みななんだか陳腐でくだらなく思えてしまい、もはや「無し」としか言いようがない。これが曲がりなりにも詩を書いている人間として、恥ずかしいことなのかどうかもわからない。でも無理やりに記憶の底を掻き回してみているうちに、エジソンの言葉とされる「少年よ、時計を見るな」がやっと浮かんできたのだったが、もはや私は少年ではないので、やはり好きな言葉と言うには無理があるということである。遺句集『てんてん』(2006)所収。(清水哲男)


April 1542006

 魚島や雨ふりさうな葉のゆらぎ

                           対中いずみ

語は「魚島(うおじま)」で春。山の子ゆえ海のことにはうとく、この季語にもまったく馴染みがない。手元の角川版歳時記から、定義を引き写しておく。「四〜五月になると鯛や鰆などが瀬戸内海に入り込み、海面にあたかも島のようになってひしめきあう。この時期を『魚島時』といい『魚島』はそれを略した形で、豊漁をさすこともある。瀬戸内海地方の方言。燧灘に浮かぶ魚島は鯛漁で有名で、ここの港が語源ともいわれる」。また他の歳時記によれば、兵庫、岡山など瀬戸内海に面した地方では、この時期に鯛の市が立つそうで、これもまた「魚島」と言うとある。総合して考えると、要するに「魚島」とは、瀬戸内海の海の幸の豊饒期をさす季語ということになる。掲句からだけでは、作者が実際に魚島を見ているのかどうかはわからないが、しかし、豊穰感はよく伝えられていると思った。それはむろん「雨ふりさうな」曇天と心理的に関係していて、抜けるような青空の下では得られない種類の思いが込められている。すなわち何も魚の群れとは限らないのだけれど、ものみな晴天下では躍動感こそあれ、それはそのまま心理的に中空に抜けてしまうのに対して、曇天下では逆に内面に貯め込まれるようなところがある。いまにも降り出しそうな気配を周辺の「葉のゆらぎ」に感じて、作者は「魚島時」独特の充実感、豊穰感が盛り上がってくるのを、全身で感応しているのであろう。曇天もまた、春の醍醐味なのである。『冬菫』(2006)所収。(清水哲男)


April 1442006

 いもうとのままに老いたり桜餅

                           平沢陽子

語は「桜餅」で春。塩漬けにした桜の葉の芳香が快い。家族のなかに、姉か兄がいる。だから、「いもうと」。だから、家族のなかではいつもいちばん若かった。何かにつけて、そのことを意識させられることも多かった。それが、どうだろう。若い若いと思って生きているうちに、いつしか「老い」の現実が、若い気分の自分に突きつけられることになっていた。老いが誰にも避けられないことはわかっていても、「いもうとのままに」老いたことに、作者はちょっと不思議な感じを受けたのだ。理屈ではなく、なんとなく理不尽な感じがしている。子供のころから姉か兄かと分けあって食べた「桜餅」を、あらためて懐かしいようなものとして眺めているのだろう。当たり前のことを当たり前に詠んだだけの句だが、じんわりと心に沁みてくる句だ。私ごとで言えば、私は長男だからいつも二人の弟たちよりも年上であったわけで、ずっと年長者意識はつづいてきた。だから、弟たちはいつまでも若いと思ってきたのだが、その弟の一人が還暦を迎えたときには、なんとなく理不尽な感じを受けたものである。これまた、理屈ではない。作者とは立場がまったく逆になっているだけで、受けたショックの質は同じようなものだろう。読めば読むほどに、味わい深い良い句です。しんみり。「詩歌句」(第九号・2006年3月)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます