文藝家協会ニュースで小川双々子さんが亡くなったことを知る。1月17日、八十三歳。悼。




2006ソスN2ソスソス13ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

February 1322006

 鳩舎繕ふ少年二月の陽を帽に

                           皆川盤水

語は「二月」で春。私にそのチャンスはなかったが、戦後の一時期、少年たちの間で伝書鳩を飼うのが流行ったことがある。そのころの句だ。だから格別に珍しい情景でもないのだけれど、少年の持つ一途さを捉えていて秀逸な句だ。陽が射しているとはいえまだ寒い二月の戸外で、少年が一心に「鳩舎」を修繕している。このときの「帽」は学生帽でなければならないが、「陽を帽に」で、少年が俯き加減で繕っていることがわかる。つまり、熱中している様子がよく伝わってくる。勉強やら家の仕事やらには不熱心でも、こういうことになると、たいがいの少年は夢中になるものだ。無償の行為であり、その行為が自分に何をもたらすかなどは、一切考えない。ただひたすらに、行為のなかに沈み込み没頭するのみなのである。同世代の少女たちと比較すれば、馬鹿みたいに子供っぽく見えるけれど、少年は開かれた分別よりも閉ざされた自分だけの世界を愛するのだから仕方がない。学校に行っても、鳩のことばかり考えている。かつて少年であった作者にはそうしたことが理解できるので、微笑しつつ少年の一所懸命さを眺めているのだ。鳩を飼う少年といえば、大島渚のデビュー作『愛と希望の街』(1959)が思い出される。主人公の少年は貧しさゆえに、鳩の帰巣本能を利用した詐欺商売を思いつく。街頭で鳩を売り、買った人が鳩を放てば少年の鳩舎に戻ってくるので、それをまた売ればよいという計算だ。映画の大きなテーマとは別に、少年が一心に育てた鳩に全幅の信頼を寄せている姿が実に切ない。『積荷』(1964)所収。(清水哲男)


February 1222006

 春寒くわが本名へ怒濤の税

                           加藤楸邨

語は「春寒(はるさむ)」だが、句意には「春にして、いよいよ寒し」の感がある。「怒濤の税」をかけられて怒り心頭に発し、寒さなど吹っ飛ぶかと思いきや、あまりの予想外の重税にかえって冷静になってしまい、何度も数字を確認しているうちに、ますます寒さが身に沁みている図だ。上手な句ではないけれど、「本名に」が効いていて、当人の困惑狼狽ぶりがよく伝わってくる。ちなみに、作者の本名は「加藤健雄」という。私は筆名を使わないのでわからないのだが、使う人にしてみれば、筆名で得た収入の税金を、稼ぎの少ない本名に課されるのは、それだけで理不尽な感じがするのだろう。同じ人間が二つの名前を使っているにせよ、それぞれ「加藤楸邨」と「加藤健雄」と名乗るときの人格は、多少とも区別されているに違いないからだ。大袈裟に言えば、当人にもほとんど別人のように思えるときもありそうである。それがお役所の手にかかると、にべもなく同一人物とされてしまうのだから、とりわけて収入の少ない「健雄」には納得し難いというわけだ。税金の季節、今年も申告用紙が送られてきた。収入からして私に「怒濤の税」は無縁だが、つらつら項目を仔細に眺めてみるに、いろいろな控除額が激減している。広く薄く、取れるところからは少しでも取ろうという魂胆が見え透いていて不快である。掲句とはまた別の「春寒」を感じている納税者が、今年はずいぶんと増えているのではあるまいか。『俳句歳時記・春の部』(1955・角川書店)所載。(清水哲男)


February 1122006

 机低過ぎ高過ぎて大試験

                           森田 峠

語は「大試験」で春。戦前は「大試験」というと、富安風生の「穂積文法最も苦手大試験」のように、学年試験や卒業試験のことだった。ちなみに「小試験」は学期末試験を言った。掲句の作者は戦後の高校教師だったから、句の情景は入学試験である。いつのころからか卒業試験は形骸化してしまった(ような)ので、現代で「大」の実感を伴うのは入学試験をおいて他にないだろう。作者は試験監督として教室を見渡しているわけだが、「机低過ぎ高過ぎて」とは言い得て妙だ。普段の教室ならば、背の高い順に後方から並ぶとか、生徒たちは何らかの規則的な配列で着席するので気にならないが、入試では受験番号順の着席になるから、背丈の凸凹が目立つのである。試験は試験の句でも、監督者の視点はやはり受験生のそれとはずいぶんと違っていて興味深い。ということは「大試験」の「大」の意識やニュアンスも、立場によって相当な差があることになる。受験生の「大」は合否の方向に絞られるが、監督者のそれは合否などは二の次で、とにかくトラブル無しに試験が終了することにあるということだ。いまの時期は、大試験の真っ最中。今年はとくに寒さが厳しいし、インフルエンザの流行もあって、受験生とその家族は大変だろう。月並みに、健闘を祈るとしか言いようがないけれど。『避暑散歩』(1973)所収。(清水哲男)




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