「里の秋」「みかんの花咲く丘」の川田正子さん逝く。きれいな声だった。ありがとう。




2006ソスN1ソスソス24ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

January 2412006

 フーコーの振子の転位冬牡丹

                           恩田侑布子

語は「冬牡丹(ふゆぼたん)」、「寒牡丹」に分類。厳冬に咲く花を観賞する。霜除けの藁を三角帽子のようにかぶせられた姿が、可愛らしくも微笑ましい。句ではいきなり「フーコーの振子」が出て来て驚かされたが、作者はおそらく、この三角帽子からフーコーの装置を連想したのではなかろうか。フーコーの振子は、地球の自転を視覚的に証明する装置だ。できれば北極か南極にセットするのが理想的だが、赤道を除いた地球の任意の地点に巨大な振子装置を作る。作ったら、振子を水平に揺らしてやる。すると、ちょっと見た目には振子はいつまでも水平運動だけを繰り返しているようだが、そうではない。観察すると、水平運動を繰り返しつつも、徐々に振子は同時に回転もしていることが確認されるのだ。つまり、この回転は地球の自転と連動してからなのであって、北極か南極ならば、振子の転位の軌跡はきれいな円錐形を描き出すだろう。冬牡丹の藁の三角帽子を、このフーコーの振子の「転位」の軌跡である円錐形に見立てれば、そこに咲いているのは牡丹は牡丹でも、どこか宇宙の神秘を感じさせる花のようにも見えてくる。地球は自転している、だからこの花はこのようにある。普段そんなことを思って花を愛でる人はいないだろうが、たまには句のように大胆に視点を変えてみると、これまでは見えなかったものが見えてくることがありそうだ。『振り返る馬』(2005)所収。(清水哲男)


January 2312006

 風花やライスに添へてカキフライ

                           遠藤梧逸

語は「風花(かざはな)」で冬。良く晴れた空から雪片が、ちらつきながら舞い降りてくることがある。遠くで降っている雪が風に吹き送られてくる現象で、まことに美しい。これが風花。掲句はそんな風花が舞うなかで、作者がこれから食事をしようとしているところだ。レストランというよりも、食堂と言ったほうが似合いそうな店でのことだろう。「ライスに添へて」と、わざわざ「ライス」を立ててあるところからして、楽しみのための食事ではなく、空腹を満たすための日常的な食事という感じが強いからだ。言うなれば「カキフライ定食」を注文したのかな。とはいえ、カキフライをおかずにするということは、いつもの定食のレベルよりは、ちょっと張り込んだ食事であるに違いない。何か良いことでもあったのか、作者は上機嫌だ。暖かい食堂の窓から見やると、青い空に風花はますます美しく舞っており、作者はささやな幸福感に、束の間ながらも浸ることになるのだった。おだやかで明るい句だけれど、しかし一抹の哀感も漂っている。ささやかな幸福感とは、まこと風花のように、移ろいやすく消えやすいものだからだ。それにしても、風花とは巧みなネーミングだ。むろん外国にも同じ気象現象はあるだろうが、これほどに美しい呼び名はないのではあるまいか。『新歳時記・冬』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


January 2212006

 湯ざめとは松尾和子の歌のやう

                           今井杏太郎

語は「湯ざめ」で冬。はっはっは、こりゃいいや。たしかに、おっしやるとおりです。ちょっと他の歌手でも考えてみたけれど、思い当たらなかった。やはり「松尾和子」が最適だ。句は即興かもしれないが、こういうことは日頃から思ってないと、咄嗟には出てこないものだ。作者は松尾和子全盛期のころから、既に「湯ざめ」を感じていたにちがいない。ムード歌謡と言われた。フランク永井とのデュエット「東京ナイトクラブ」や和田弘とマヒナスターズとの「誰よりも君を愛す」あたりが、代表作だろう。「お座敷小唄」を加えてもいいかな。口先で歌うというのではないが、歌詞内容にさほど思い入れを込めずに歌うのが特長だった。歌詞がどうであれ、行き着く先は甘美で生活臭のない愛の世界と決め込んで、そこに向けて予定調和的に歌い進めるのだから、歌詞との間に妙な感覚的ギャップが生まれてくる。そこがムーディなのであり魅力的なのだが、しかし、このギャップにこだわれば、どこまでいっても中途半端で落ち着かない世界が残されてしまう。まさに「湯ざめ」と同じことで、聴く側の熱が上昇しないままに歌が終わってしまうのだから、なんとなく風邪気味のような心持ちになったりするわけだ。松尾和子が57歳の若さで亡くなったのは1992年、自宅の階段からの転落が、数時間後に死を招いた。その二年ほど前、一度だけ新宿のクラブでステージを見たことがある。「俳句研究」(2006年2月号)所載。(清水哲男)




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