起き抜けに「東京」「朝日」「讀賣」「毎日」「日経」とネットを回る。これで一時間。




2005ソスN10ソスソス20ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 20102005

 火の粉撒きつつ来るよ青年焼芋屋

                           山田みづえ

語は「焼芋(焼藷・やきいも)」で冬だが、実際の「焼芋屋」商売は季語に義理立てなんかしちゃいられない。我が家の近辺にも、かなり冷え込んだ一昨夜、颯爽と登場してまいりました。焼芋屋が「颯爽と」はちょっと違うんじゃないかと思われるかもしれないが、これが本当に「颯爽」としか言いようがないのだから仕方がない。というのも、軽トラに積んだ拡声器が流していたのは、例の売り声「♪やぁ〜きぃも〜〜 やぁ〜きぃも〜 いしぃ〜やぁ〜きいも〜〜 やぁ〜きぃも〜」ではなくて、何とこれがベートーベンの「歓喜の歌」だったのだから……。意表を突くつもりなのか、それともクラシック好きなのか、遠くから聞こえてきたときには一瞬なんだろうと思ってしまった。掲句の焼芋屋の趣も、かなり似ている。焼芋屋というと何となく中年以上のおじさんを連想してしまうが、これがまあ、実はまだ若々しい青年なのでありました。その若さの勢いが、屋台の「火の粉撒(ま)きつつ」とよく照応していて、出会った作者は彼の元気をもらったように、明るい気持ちになっている。季語「焼芋」の醸し出す定型的な古い情趣を、元気に蹴飛ばしたような句だ。彼の売り声は、どんなだったろうか。昔ながらの「♪やぁ〜きぃも〜〜 やぁ〜きぃも〜」も捨て難いけれど、売り声もこれからはどんどん変わっていくのだろう。でもどうひいき目に考えても、ベートーベンではとても定番にはなりそうもないけれど。『手甲』(1982)所収。(清水哲男)


October 19102005

 殺めては拭きとる京の秋の暮

                           摂津幸彦

語は「秋の暮」。秋の終りのことではなく、秋の日暮れのこと。昔はこの両方の意味で使われていたが、今では日暮れ時だけに用いる。ちなみに、秋の終りは「暮の秋」と言う。千年の都であり国際的な観光都市として知られる京都は、先の大戦でも戦火を免れ、いまや平和で平穏な街というイメージが濃い。なんだか昔からずっとそのようであった錯覚を抱きがちだが、歴史的に見れば「京」は戦乱と殺戮にまみれてきた土地でもある。古くは十年間に及んだ応仁文明の乱がすぐに想起されるし,新撰組による血の粛清からでもまだ百年と少々しか経っていない。これら有名な殺戮の歴史だけではなく、都であったがゆえの血で血を洗う抗争の類は数えきれないほどあったろう。だが、「京」はそんな殺戮があるたびに、それを一つずつ丁寧に「拭きと」ってきた歴史を持つ街なのであり、さらには現代の「京」にもまたそんなところがあると、掲句は言っている。したがって、この句の「秋の暮」に吹いているのは、荒涼たる無常の風だ。京都市にはいま、およそ1700近くの寺があるそうだが、これら寺院の「殺(あや)めては拭きとる」役割にも大きなものがあったと思われる。それでなくとも物寂しい「秋の暮」に、句から吹き起こる無常の風は、骨の髄まで沁みてくるようだ。怖い句である。『鳥屋』(1986)所収。(清水哲男)


October 18102005

 飼い馴らす携帯電話露の夜

                           鈴木 明

語は「露」で秋。一度も「携帯電話」を持ったことはないけれど、パソコンなどの他の機器から類推して、句の「飼い馴らす」の意味はわかるような気がする。たぶん携帯電話にはいろいろな機能がついているので、それらを自分が使うときに便利なようにカスタマイズできるのだろう。その作業を、作者は秋の夜にやっている。私よりも少し年上の方だから、失礼ながら、マニュアルと首っ引きでたどたどしく……。しかし、これをやっておかないと、快適には使えない。やむを得ず作業をつづけているわけだが、そのうちに時々ふっと空しくなってくる。このときに「露」は空しさの象徴だ。夜間に結ぶ露も、明日朝くらいまでのわずかな時間しか身を保つことができない。いま行っているおのれの作業が、いま盛んに結ばれている露みたいに感じられると言うのだ。2002年と三年前の作だが、いまや「携帯電話」とは誰も言わなくなった。「ケータイ」である。それこそ機能的にも「ケータイ」は単なる「携帯電話」とは違い、テレビも受信できればカメラもついている。もう「電話」と言うことはできない。ますます「飼い馴らす」のが難しそうだ。私が持たないのは、そういうことからではなくて、元来が電話嫌いだからだ。相手の都合などおかまいなしの暴力性が、なによりも気に食わないのである。『白』(2003)所収。(清水哲男)




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