朝、窓を開けると、仄かな木犀の香りが漂ってくるように……。しばらくは楽しめます。




2005ソスN10ソスソス6ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 06102005

 山里の子も毬栗も笑はざる

                           大串 章

語は「毬栗(いがぐり)」で秋、「栗」に分類。かつて、作者もまた「山里の子」であった。往時の自分や友人たちの表情と重ねあわせての作句だと思う。最近の箱根で詠んだ句のようだが、たまたま道で出会った「子」の顔に笑いがないことに気がついて、ハッとしている。この場合、笑いとはいっても微笑み程度のそれだ。もっと言えば、社交辞令的な笑いである。都会に暮らしていると、大人はもとより、子供にもコミニュケーションをスムーズにするための微笑みは不可欠だろう。大人に声をかけられたりすると、たいていの子は笑みを含んだ表情をする。ところが、句の「子」はにこりともしなかった。山里ゆえに、不特定多数の人々とのコミニュケーションの必要がないせいである。可笑しくもないのに、知らない人にへらへらとはできない。べつにそういう信念があるわけでもないのだが、都会の子のようにちょっと笑みを含むことすらも、不本意な媚びに通じるようで嫌なのだ。そんな子の表情を久しぶりに見た作者は、子供だった頃の自分たちもそのようだったと思い出して、笑わない里の子に大いに共感を覚えたのだった。折しも頭上には爆ぜかけた毬栗が見られ、笑い顔に見えないこともないけれど、その子の表情を見た目には、もうそのようには写らない。マセてもいないしスレてもいないピュアな表情の魅力。ついでにこの子が毬栗頭であれば面白いのにとも思ったが、そこまでは、どうだったのかしらん……。俳誌「百鳥」(2005年10月号)所載。(清水哲男)


October 05102005

 お二階にヨガしてをられ花芒

                           梶川みのり

語は「花芒(はなすすき)」で秋、「芒」に分類。隣家か向かいの家だろう。秋晴れの上天気に、大きく「二階」の窓が開け放たれている。ちらりと視線をやると、生けられた「花芒」が見え、いつものように「ヨガ」に集中している人の姿も見えたのだった。この景に象徴されるように、その人の生活にはいつも余裕のある潤いが感じられ、人生を楽しむ達人のような感じすら受けている。「この命なにをあくせく」の身からすれば、羨ましくもあり尊敬の念がわいてくる存在だ。俳句で「お二階」などと「お」をつけることは稀であるが、この句の場合には「お」が効いている。その人への敬愛の念が、素直に丁寧や尊敬の接頭語である「お」をつけさせたというべきで、単なる「お菓子」や「お茶碗」の「お」とはニュアンスが異なっている。あえて言えば、丁寧語である「お菓子」の「お」と、尊敬語である「お手紙」などの「お」が重なりあっているのだ。つまり、その人あっての「二階」が「お二階」というわけである。したがって、掲句の「お」には上品ぶった嫌みはない。ところで世の中には、まさに上品ぶって、何でもかでも「お」をつけたがる人がいる。味噌汁のことを「おみおつけ」とも言うけれど、あれは元来は「つけ」だったのに、「お」「み」「お」と三つもの接頭語が上品に上品にと積み上げられた果ての言葉であることはよく知られている。しかしまあ「おみおつけ」までは許すとしても、許せないのは外来語にまで「お」をつける人である。「おビール」なんて言われると、ぞっとする。『転校生』(2004)所収。(清水哲男)


October 04102005

 風化せし初恋ながら龍の玉

                           小島可寿

語は「龍の玉(りゅうのたま)」で秋。まだ本物の宝石など見たこともなかった子供のころ、この小さな瑠璃色の玉を見て「なんだか宝石みたいだな」と思った記憶がある。実が固くてよく弾むので、地面にバウンドさせて遊んだりもしたが、それよりも日陰にひんやりと忘れられたようにある状態を眺めるのが好きだった。子供のときから、センチメンタルな気質だったということか。最近、あまり見かけなくなったのが寂しい。掲句は、そんな私の印象によく通じていて忘れ難い。遠い日の「初恋」は既に「風化」しており、もはや相手の面影すらもが鮮明とは言えなくなってきた。ただつれづれに、そのころのことを思い出すことがあると、心の状態だけは昔そのままによみがえってくる。いまでも、胸がきゅんとなる。それはさながら、細長い葉むらの奥にひっそりと実を結ぶ「龍の玉」のようにあくまでも静かではあるが、あくまでも色鮮やかなのだ。「風化」とは言っても、心情的には限りなく「昇華」に近いそれだろう。「龍の玉」の特性をよく生かした抒情句である。青柳志解樹編『俳句の花・下巻』(1987)所載。(清水哲男)




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