郵便局の投信販売がスタート。郵便局に金をあずけても損する時代がやってきた。嗚呼。




2005ソスN10ソスソス4ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

October 04102005

 風化せし初恋ながら龍の玉

                           小島可寿

語は「龍の玉(りゅうのたま)」で秋。まだ本物の宝石など見たこともなかった子供のころ、この小さな瑠璃色の玉を見て「なんだか宝石みたいだな」と思った記憶がある。実が固くてよく弾むので、地面にバウンドさせて遊んだりもしたが、それよりも日陰にひんやりと忘れられたようにある状態を眺めるのが好きだった。子供のときから、センチメンタルな気質だったということか。最近、あまり見かけなくなったのが寂しい。掲句は、そんな私の印象によく通じていて忘れ難い。遠い日の「初恋」は既に「風化」しており、もはや相手の面影すらもが鮮明とは言えなくなってきた。ただつれづれに、そのころのことを思い出すことがあると、心の状態だけは昔そのままによみがえってくる。いまでも、胸がきゅんとなる。それはさながら、細長い葉むらの奥にひっそりと実を結ぶ「龍の玉」のようにあくまでも静かではあるが、あくまでも色鮮やかなのだ。「風化」とは言っても、心情的には限りなく「昇華」に近いそれだろう。「龍の玉」の特性をよく生かした抒情句である。青柳志解樹編『俳句の花・下巻』(1987)所載。(清水哲男)


October 03102005

 鰯雲「馬鹿」も畑の餉に居たり

                           飯田龍太

語は「鰯雲」で秋。よく晴れた昼時の「畑」で、一仕事を終えた家族が昼食をとっている。通りがかった作者が見るともなく見やると、その昼「餉」の輪のなかに「馬鹿」もいて、一人前に何か食べていた。「馬鹿」と括弧がつけられているのは、作者が一方的主観的に馬鹿と思っているのではなく、「馬鹿」と言えば近在で知らぬ者はない通称のようなものだからだろう。知恵おくれの人なのかもしれないが、大人なのか子供なのかも句からは判然としない。いずれにしても畑仕事などできない人で、家に残しておくのも心配だから連れてきているのだ。その人が「餉」のときだけはみんなと同じように一丁前に振る舞っているところに、作者は一種の哀しみを感じている。空にはきれいな「鰯雲」が筋を引き、地には収穫物が広がっていて、同じ天地の間に同じ人間として生まれながら、しかし人間の条件の違いとは何と非情なものなのか。掲句の哀感を押し進めていけば、こういう心持ちに行き着くはずだ。が、それをあえて深刻にしすぎないようにと、作者はスケッチ段階で句を止めている。だから逆に、それだけ読者の心の中で尾を引く句だとも言えるだろう。ところで「馬鹿」ではないけれど、かつて深沢七郎が田舎に引っ込んだときには、近所の人から「作文の先生」と呼ばれていた。昔の田舎では、あまり戸籍上の苗字で人を呼んだりはしなかったものだ。掲句の作者にも、きっと往時には通称があったに違いない。どんな呼ばれ方だったのか、ちょっと興味がある。『定本・百戸の谿』(1976)所収。(清水哲男)


October 02102005

 つかれはてて肉声こぼるや酒光る

                           成田三樹夫

季句。雑誌「en-taxi」(2005年11月号)が、「『七〇年代東映』蹂躙の光学」という特集を組んでいる。シリーズ「仁義なき戦い」などで人気を博した時代の東映回顧特集だ。そんな東映実録物路線のなかで、敵役悪役としてなくてはならぬ存在が、句の作者・成田三樹夫であった。クールなマスク、ニヒルな演技にファンも多かった俳優である。惜しくも五十五歳の若さで亡くなってしまったが、没後に句集が出ていることを、同誌で石井英夫が紹介していた。なかに掲句があるそうだが、作者が俳優とわかると、やけに心に沁みてくる。やっと仕事が終わってホッとした酒の席で、「つかれはてて」いたために、思わずも「肉声」をこぼしてしまったと言うのだ。このときに肉声とは、作者の地声でもあり本音のことでもあるだろう。俳優とという職業柄、人前ではめったに地声を出すことはないし、ましてや本音を洩らすこともない。それが、ぽろりと出てしまったのだ。肉体的にも精神的にも弱り切った様子が、これも少しはこぼしてしまったのであろう「光る酒」に刺し貫かれるようにして露出している。石井の文章には作者へのインタビューも紹介されていて、こうある。「ゴルフもやらなきゃマージャンもできない。およそ役者のやるような趣味は何もできません」。ストレス過剰も当然だったと言うべきか。次の句にも、常に張りつめていた人の気持ちがよく現われている。「一瞬大空のすき間あり今走れ」。遺稿句集『鯨の目』(1991・無明舎出版)所収。(清水哲男)




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