総選挙である。終わると次は「国勢調査」である。国民であるためには忙しいのである。




2005ソスN9ソスソス11ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 1192005

 砂に陽のしみ入る音ぞ曼珠沙華

                           佐藤鬼房

語は「曼珠沙華(まんじゅしゃげ)」で秋。植物名は「彼岸花」だ。墓場に多いので「死人花(しびとばな)」とも。掲句を読んで、高校時代のことを思い出した。バス停から自宅までの近道に、ちょっとした墓地があって、明るいうちはそこを通り抜けて帰宅した。墓地には曼珠沙華が点々と咲いており、当時は土葬だったので、地下の死人の血を吸い上げたような赤い色が不気味に思えたものだ。後に読むことになる北原白秋の「曼珠沙華」の出だしは、次のようである。「ごんしゃん ごんしゃん どこへゆく/赤いお墓の ひがんばな/きょうも手折(たお)りに 来たわいな//ごんしゃん ごんしゃん 何本(なんぼん)か/地には七本(しちほん) 血のように/ちょうど あの児(こ)の 年(とし)のかず」。よく晴れた日の午後の、人っこ一人いない墓地の静寂……。掲句の作者は、それを逆に「砂に陽のしみ入る音」と表現している。すなわち、無音の音がしていると言うのだ。いま思えば、私の通っていた墓地でも、たしかに無音の音がしていたような気がする。それも墓の下に眠る死者たちへ、天上の「陽」がじわりじわりとしみ入る「音」(のようだ)と聞いたところに、作者の無常観があらわれている。私たちが墓場に佇むときの一種名状し難い心持ちが、視覚的に、そして聴覚的にも的確に表現されている見事な作だ。『半迦坐』(1988)所収。(清水哲男)


September 1092005

 かそけくも咽喉鳴る妹よ鳳仙花

                           富田木歩

語は「鳳仙花(ほうせんか)」で秋。句は「病妹」二句のうち。「妹」は作者の末妹・まき子のことだから、この場合は「いも」ではなく「いも(う)と」と読むべきだろう。この句の前年作に「我が妹の一家のため身を賣りければ」と前書きした「桔梗なればまだうき露もありぬべし」がある。まき子は姉・富子の旦那・白井波吉の経営する向島「新松葉」の半玉となったが、翌年に「肺病」を患ってしまい、実家に戻された。その折りの句だ。貧困ゆえ、満足に医者にも診せられなかったに違いない。しかも作者は、この年の冬に弟の利助を同じ病いで失っている。したがって、妹の余命がいくばくもないこともわかっていただろう。荒い息に咽喉(のど)を鳴らしている彼女の姿を凝視するばかりで、何とか助けてやりたいのだが、何もしてやれない。そのもどかしさをそのままに、鳳仙花のはかない美しさを妹のそれに重ねあわせて詠むことにより、妹に対する心からの愛情と憐憫の情とが滲み出ている。それから間もなくして,彼女は逝った。享年十八。このとき二十一歳だった木歩の悲嘆は、いかばかりだったろうか。妹の死といえば、宮沢賢治の詩「永訣の朝」がよく知られているが、わずか十七文字の掲句はそれに匹敵する内容と気品とをそなえている。松本哉編『すみだ川の俳人・富田木歩大全集』(1989・私家版)所収。(清水哲男)


September 0992005

 重陽の穴ある三角定規かな

                           栗栖恵通子

語は「重陽(ちょうよう)」で秋。陰暦九月九日のこと。中国では奇数を陽数としたので、その陽数「九」が月にも日にもつくことからの命名だ。ちょうど菊の盛りの頃ということもあり、「菊の節句」とも言われる。掲句はこの言い伝えを踏まえて、たまたま机上にあったのか、そういえば「三角定規」の「三」も陽数だし,これも重陽のうちだなと面白がっているのだろう。三角定規は普通、45度角のものと60度角のものとが二枚でワン・セットになっている。ただしこれを重ねようとしても、形が違うのでぴったりとは重ならない。重なるところがあるとすれば、真ん中に開けられた丸い「穴」の部分のみだ。そこを重ねれば、見事に重陽となる。したがって、「穴ある三角定規」と「穴」を詠み込んだわけだ。ところで、三角定規の穴は何のために開けられているかをご存知だろうか。単なる装飾のためではない。まことしやかにいろいろと説明する人もいるようだけれど、あの穴は、三角定規で線を引くときに下の紙が動かないようにするためである。つまり、穴に指を入れて下の紙を押さえて使うという、極めて実用的な穴なのである。しかし、たいていの学校ではそういうことは教えないので、折角の穴も使われずじまいになっているのではあるまいか。どんな道具にも、基本的な使い方というものがある。読者のなかに小学校の先生がおられましたら、ぜひ子供たちに教えてやってください『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)




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