今月の看板写真は、二月に仙台を撮ってくれた相原亨さんの港町シリーズ。乞う御期待。




2005ソスN9ソスソス1ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

September 0192005

 秋風や壁のヘマムシヨ入道

                           小林一茶

ヘマムショ入道
存知でしたか、「ヘマムシヨ入道」。由緒正しいというのも変だけれど,これは江戸期の由緒正しい落書きの一つだ。現代人なら誰でも「へのへのもへじ(へへののもへじ)」の「文字絵」を知っているように,江戸時代の人にはおなじみの「絵」だったようである。「へのへのもへじ」が顔の正面をあらわしているのに対して、「ヘマムシヨ入道」は身体のついた横顔を表現している(図版参照)。そんな絵が壁に落書きされていても、べつに珍しいことではないはずなのだが、このときの作者はしばらく見入ってしまったのだろう。「秋風」に吹かれて、いささか感傷的になっていたのかもしれない。見つめているうちに、ちょっと気難しげな顔つきが気になってきて,この「入道」はいったいどんな人物なのだろうかなどと、いろいろと想像しているのではなかろうか。いずれにしても、何でもない落書きに目をとめたりするのは、四季のうちでも秋がもっとも似つかわしい。「秋思」という季語まであるくらいだ。文字絵に戻れば,「ヘマムシヨ入道」の発想はパソコン時代の顔文字やアスキー・アートに似ている。それらの元祖と言っても差し支えないだろう。だが、いつも不思議に思うのは、こういうことに西欧人はあまり関心がないらしい点だ。あちらのサイトをめぐっていても、顔文字などにはめったにお目にかかれない。何故なのだろうか。(清水哲男)


August 3182005

 本ばかり読んでゐる子の夏畢る

                           安住 敦

語は「夏畢る(夏終る)」、「夏の果」に分類。既に二学期がはじまっている学校もあるが、多くの学校では今日までが夏休みだ。この間、ほとんど本ばかり読んで過ごした子の「夏」も、いよいよ今日でおしまいだなあと言うのである。親心とは切ないもので、いつも表で遊び回っている子もそれはそれで心配だけれど,本を読んでいるとはいえ、家に閉じこもってばかりいる子の不活発さも気になってしまう。明日からは新学期。作者はこれで、少しは活発に動いてくれるだろうと、ほっとしているのだ。なお「終る」ではなく、わざわざ「畢る」という難しい文字を使ったのは、書物の終りを示す「畢(ひつ)」にかけて「もう本は終りだよ」と洒落たのだろう。「畢」は漢語で「狩猟に用いる柄つきのあみにかたどった象形文字で、もれなくおさえてとりこむ意を表す」[広辞苑第五版]。ひるがえって、私が子供だった頃はどうだったろうか。どちらかと言えば性格的には不活発だったと思うけれど、しかし閉じこもって読むべき本がなかった。唯一の楽しみは母方の実家から送ってもらっていた新刊の「少年クラブ」であり、それを読んでしまうと何も読むものがなかった。仕方がないから炎天下、手製の釣り竿と餌のミミズを入れた缶カラとをぶら下げて、あまり意欲の無い魚釣りをよくやったものだ。退屈だった。早く新学期にならないかと、夏休みのはじまった頃から思いつづけてたっけ。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


August 3082005

 秋澄むやステップ高き検診車

                           吉村玲子

検診車
語は「秋澄む」。秋の大気が澄み切った様子を言う。最近は検診車に乗ったことがないが、昔はたしかに一般のバスに比べて。少し「ステップ」が高かったような記憶がある(写真参照、1960年代に北海道で使われていた車両だそうです)。自動車のメカの知識は皆無だけれど、いろいろな精密機器を積む関係で、エンジンの種類や設置する場所などが制限され,どうしても車体を高くする必要があったのではなかろうか。会社をやめてから何度か、居住する自治体の検診車でレントゲン撮影などを受けた。検診を受ける気持ちには微妙なものがあって、若い間は健康に自信があったので気楽に積極的に受診できたのだが、五十代に入るころからいささか躊躇するといおうか、できれば避けたいような気持ちが強くなっていった。結果の通知をおそるおそる開くときの、あの、いやアな感じ……。まあ、そんな自分のことはともかく、このときの掲句の作者はすこぶる元気だったのだろう。元気でないと,いくら大気が澄んでいようとも、気持ちよく「秋澄む」と詠み出す気にはなれないはずだからだ。だからステップの高さまでが、むしろ心地よいのである。「よっこらしょ」としんどそうに乗るのではなく、高さに戸惑ったのは一瞬で、すぐに軽やかに乗り込んだのだと思う。「秋澄む」の爽やかな雰囲気を自然の景物ではなく、ちょっと意外な「検診車」を使って出したところがユニークで面白い。『冬の城』(2005)所収。(清水哲男)




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