アブラゼミばかりが鳴きしきる我が近隣なり。ああ切実に「かなかな」が聞きたいかな。




2005ソスN8ソスソス7ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 0782005

 今朝秋のよべを惜みし灯かな

                           大須賀乙字

日は、早くも立秋である。季語は「今朝(の)秋」。立秋の朝を言う。作者は、早暁に目覚めた。「灯(ともし)」は街灯だろうか、それともどこかの家の窓の灯火だろうか。いずれにしても、「よべ」(昨夜)から点いていたものだ。そして今日が立秋となれば、その灯は今年最後の夏の夜を見届けたことになり,「今朝秋」のいまもなお、去って行った夏を惜しむかのように点灯していると見えるのである。昨夜までで消えた夏を言い、立秋に一抹の哀感を漂わせた詠みぶりが斬新だ。「そもそも詩歌製作後の吾等感情は一種解脱的の味ひである。然るに俳句は製作に取り掛る時は既に解脱的寂滅的調和の感情に到達して居る」と乙字の俳論にあるが、みずからの論を体現し得た佳句と言えよう。ところで掲句は掲句として,例年のことながら,立秋は猛暑の真っ只中に訪れる。毎年立秋を迎えると,どこに秋なり秋の気配があるのかと、ぼやくばかりだ。一茶に「けさ秋や瘧の落ちたやうな空」(「瘧」は「おこり」)があるけれど、なかなかそううまい具合には、自然は動いてくれない。それでも人間とは面白いもので、そう言えば朝夕はかなり涼しくなってきたような……などと、懸命に秋を探してまわったりするのである。「立秋と聞けば心も添ふ如く」(稲畑汀子)。このあたりに、私たちの本音があるのだろう。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


August 0682005

 舌やれば口辺鹹し原爆忌

                           伊丹三樹彦

十年前の昭和二十年八月六日、広島市に,つづいて九日、長崎市に原爆が投下された。私の住む東京・三鷹市では,両日の投下時刻と敗戦日正午に黙祷のための街頭放送で告知しチャイム音を鳴らす。隣りの武蔵野市では、何も流さない。瞬時にあわせて三十万人の人命が殺傷された歴史的事実に,向き合う自治体とそうしない自治体と……。ところで知らない人もいるようだが、十余年前のアメリカの情報開示により、広島長崎以前に、既に原爆犠牲者と言うべき人々が存在していたことが判明した。すなわち、同型の模擬爆弾を使った本物投下の訓練が、事前に日本各地五十カ所余りで行われていたのだった。「新潟県では現在の長岡市に1発の5トン爆弾が落とされ、4人が死亡、5人が負傷した。60年を経て、着弾した同市左近町の太田川の土手に『投下地点跡地の碑』が建てられ20日、市民ら約100人が見守る中、投下時間(午前8時13分)に合わせて除幕された」(2005年7月20日付「毎日新聞」)。他の地方でも、死者が出ている。また、これは最近の情報開示によるが,戦後歴代の首相のなかで、池田勇人と佐藤栄作が日本の核武装化を目指していたこともわかった。掲句はこうした事実が判明する以前の作と思われるが,原爆による圧倒的な悲惨に向き合った一市民の、やりきれない思いがよく伝わってくる。「口辺鹹し」は、「くちのへからし」と読んでおく。「鹹し」は「塩辛い」の意。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


August 0582005

 新聞のゲラ持ち走り夜の雷

                           津野陽子

語は「雷」で夏。作者は新聞記者。同じ日付の新聞でも,紙面は刻々と変化していく。できるだけ新しい情報を提供すべく、何度も版を重ねて発行している。急に記事を差し替える必要に迫られたのか,大きなニュースが飛び込んできたのか。とにかく、悠長に構えているわけにはいかない。さっとゲラに目を通して,輪転機の待つ印刷部門まで走っていく。と、折りからの雷だ。真っ暗な窓の外に,青白い雷光がぱっぱっと明滅しはじめた。雷とゲラとは何の関係もないのだけれど、作者の切迫した気分や職場の雰囲気が、この取り合わせによってよく伝わってくる。その昔『事件記者』というテレビ・ドラマがあって人気だったが、たしかオープニングには印刷中の輪転機が使われていたと記憶する。職業柄,そんな輪転機の様子は何度も見てきたけれど、あの機械にはどこかとても人を興奮させるようなところがある。アメリカの小説だったか映画だったかに、唸りをあげている輪転機の傍で,小説家が機関銃のようにタイプライターを打ちまくっている場面があった。小説家とはいっても、いわゆるパルプ・マガジン(大衆向きの低俗誌)のライターなのだが、これがまたなんとも格好がよろしい。一度でよいからあんなふうに、輪転機を横目に書いてみたいものだと憧れてきたけれど、ついに夢は夢のままに終わりそうである。「俳句」(2005年8月号)所載。(清水哲男)




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