甲子園大会開幕。戦後の一時期、選手たちは自分たちの食べる米を持って宿舎に入った。




2005ソスN8ソスソス6ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

August 0682005

 舌やれば口辺鹹し原爆忌

                           伊丹三樹彦

十年前の昭和二十年八月六日、広島市に,つづいて九日、長崎市に原爆が投下された。私の住む東京・三鷹市では,両日の投下時刻と敗戦日正午に黙祷のための街頭放送で告知しチャイム音を鳴らす。隣りの武蔵野市では、何も流さない。瞬時にあわせて三十万人の人命が殺傷された歴史的事実に,向き合う自治体とそうしない自治体と……。ところで知らない人もいるようだが、十余年前のアメリカの情報開示により、広島長崎以前に、既に原爆犠牲者と言うべき人々が存在していたことが判明した。すなわち、同型の模擬爆弾を使った本物投下の訓練が、事前に日本各地五十カ所余りで行われていたのだった。「新潟県では現在の長岡市に1発の5トン爆弾が落とされ、4人が死亡、5人が負傷した。60年を経て、着弾した同市左近町の太田川の土手に『投下地点跡地の碑』が建てられ20日、市民ら約100人が見守る中、投下時間(午前8時13分)に合わせて除幕された」(2005年7月20日付「毎日新聞」)。他の地方でも、死者が出ている。また、これは最近の情報開示によるが,戦後歴代の首相のなかで、池田勇人と佐藤栄作が日本の核武装化を目指していたこともわかった。掲句はこうした事実が判明する以前の作と思われるが,原爆による圧倒的な悲惨に向き合った一市民の、やりきれない思いがよく伝わってくる。「口辺鹹し」は、「くちのへからし」と読んでおく。「鹹し」は「塩辛い」の意。『新歳時記・秋』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)


August 0582005

 新聞のゲラ持ち走り夜の雷

                           津野陽子

語は「雷」で夏。作者は新聞記者。同じ日付の新聞でも,紙面は刻々と変化していく。できるだけ新しい情報を提供すべく、何度も版を重ねて発行している。急に記事を差し替える必要に迫られたのか,大きなニュースが飛び込んできたのか。とにかく、悠長に構えているわけにはいかない。さっとゲラに目を通して,輪転機の待つ印刷部門まで走っていく。と、折りからの雷だ。真っ暗な窓の外に,青白い雷光がぱっぱっと明滅しはじめた。雷とゲラとは何の関係もないのだけれど、作者の切迫した気分や職場の雰囲気が、この取り合わせによってよく伝わってくる。その昔『事件記者』というテレビ・ドラマがあって人気だったが、たしかオープニングには印刷中の輪転機が使われていたと記憶する。職業柄,そんな輪転機の様子は何度も見てきたけれど、あの機械にはどこかとても人を興奮させるようなところがある。アメリカの小説だったか映画だったかに、唸りをあげている輪転機の傍で,小説家が機関銃のようにタイプライターを打ちまくっている場面があった。小説家とはいっても、いわゆるパルプ・マガジン(大衆向きの低俗誌)のライターなのだが、これがまたなんとも格好がよろしい。一度でよいからあんなふうに、輪転機を横目に書いてみたいものだと憧れてきたけれど、ついに夢は夢のままに終わりそうである。「俳句」(2005年8月号)所載。(清水哲男)


August 0482005

 蚊柱や昔はみんな生きてゐた

                           吉田汀史

語は「蚊柱(かばしら)」で夏、「蚊」に分類。蒸し暑い夏の夕方などに、蚊が群れをなして飛んでいるのを見かけることがある。最初は少数だが,たちまち数百匹の大集団になる。これは蚊の生殖行動だそうで、蚊柱を形成するのはすべて雄であり、その大集団に飛び込んでいくのが雌なのだそうな。人間には見るだけで鬱陶しい蚊柱ではあるが、蚊にしてみれば,生涯のうちで最も生命力の溢れている時空間なのだ。そのことに思いが至り,作者はふっと既に鬼籍に入っている誰かれのことを思い出したのではなかろうか。父や母のこと、親しかった友人知己の元気なころのことなどを……。すなわち、「昔はみんな生きてゐた」のだった。生きていたみんなのことを目障りな蚊柱から思い出しているところに、掲句のやるせなく切ないとでも言うべきペーソスを感じる。しかも蚊柱は,短時間のうちに消えてしまう。その儚さがまた、句にいっそう苦い味を付加している。作者には失礼かもしれぬが、句を読んだ途端に,私は「♪ぼくらはみんな生きている」ではじまる「てのひらを太陽に」という子供の歌を思い出し,なんとなく「♪昔はみんな生きてゐた」と歌ってみた。そうすると,本歌の毒々しくも能天気な向日性が消えてしまい,なかなか味わい深い歌に転化したのには我ながら驚いた。いま、首をひねった方,どうか一度お試しください。俳誌「航標」(2005年8月号)所載。(清水哲男)




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