海の恩恵に感謝するとともに、海洋国日本の繁栄を願う日。海水浴の日ではありません。




2005ソスN7ソスソス18ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

July 1872005

 朝ぐもりはめても落ちる鍋のねじ

                           水津奈々枝

語は「朝ぐもり(朝曇)」で夏。季語として定着したのは近代以降と、比較的新しい。夏の朝、いっそ晴れていればまだ多少は清々しいものを、もわあっと曇っている。蒸し蒸しする。こういうときには、決まって日中は炎暑となるのだ。作者は、朝食の用意をしているのだろう。鍋の蓋のねじが甘くなっていたので、ぎゅっと締め直したはずが、ころんと外れて落ちてしまった。男だったら舌打ちの一つもするところだけれど、やれやれともう一度直しにかかる。「今日も暑くなりそうだ」。朝曇特有のけだるいような感じが、台所での些細な出来事を媒介にしてよく伝わってくる。「旱(ひでり)の朝曇」という言葉があるそうだが、日中の晴れと暑さを約束するのが朝曇りである。どうしてそうなるかといえば、「朝、夜の陸風と昼の海風が交代し、温度の低い海風が、前日、日照によって蒸発していた水蒸気をひやすため」(平井昭敏)だという。私の田舎では「朝曇は大日(おおひ)のもと」と言っていて、子供でも知っていた。なにせ夏期の農家のいちばん辛い仕事は、田畑の草取りだったから、目覚めて朝曇りだと、大人たちはさぞやがっかりしたにちがいない。「照りそめし楓の空の朝曇」(石田波郷)などと、風流な心情にはとてもなれなかったろう。そんな農業人の朝曇りの句がないかと探してみたが、見当たらなかった。「BE-DO 微動」(2005年5月・NHK文化センター大阪教室ふけとしこ俳句講座作品集1)所載。(清水哲男)


July 1772005

 大股になるよサングラスして横浜

                           川角曽恵

語は「サングラス」で夏。いいですね、この破調。「横浜」の体言止めも効いている。作者は横浜在住の人ではなく、遊びに来ているのだろう。地元ではかけないサングラスをして、ちょっと別人になった気分で街を歩いている。サングラスの効果でその気分も高揚し、足取りもひとりでに「大股」になってゆく。まるで映画か物語の主人公になったようで、心地よい。そして、この街は東京でもなく大阪でもなく、横浜なのだ。港町の自由で開放的な雰囲気が、サングラスにとてもよく似合っている。サングラスにもよるけれど、玉の色の濃いものだと、外部からはかけている人の目の動きは見えない。そのことを承知してかけていると、かけていないときよりも視線はぐんと大胆になる。普段なら自然にすっと視線を外すような相手でも、目を逸らさなくてすむ。私は三十代のころにサングラスを愛用した経験があるので、作者の弾む気持ちがよくわかる。この弾む気持ちを持続したくて、そのうちに夜の時間もかけるようになってしまった。早い話が、サングラス中毒になっちゃった。美空ひばりの母親が野坂昭如をなじって、「夜の夜中にサングラスをしているような男を、私は信用できない」と言ったころのことだ。ひばりファンの私としては大いに困惑したけれど、結局中毒には長い間勝てなかった。あのサングラス、家の中のどこかにまだあるはずだが……。『現代俳句歳時記・夏』(2004・学習研究社)所載。(清水哲男)


July 1672005

 昔より美人は汗をかかぬもの

                           今井千鶴子

語は「汗」で夏。ふうん、そうなんですか、そういう「もの」なのですか。作者自注に「或る人曰く、汗をかくのは下品、汗をかかぬのも美人の条件と」とある。なんだか標語みたいな俳句だが、ここまでずばりと断定されると(しかも女性に)、いくらへそ曲がりな私でもたじたじとなってしまう。そんなことを言ったって、人には体質というものもあるのだから……、などと口をとんがらせてもはじまるまい。そういえば、名優は決して舞台では汗をかかないものと聞いたことがある。なるほど、舞台で大汗をかいていては折角の化粧も台無しになってしまう。このことからすると、美人のいわば舞台は日常の人前なのだから、その意味では役者とかなり共通しているのかもしれない。両者とも、他人の視線を栄養にしておのれを磨いていくところがある。だからいくら暑かろうが、人前にあるときには、持って生まれた体質さえコントロールできる何かの力が働くのだろう。精神力というのともちょっと違って、日頃の「トレーニング」や節制で身につけた一種条件反射的な能力とでも言うべきか。高浜年尾に「羅に汗さへ見せぬ女かな」があるが、これまた美人の美人たる所以を詠んでいるのであり、そんな能力を備えた涼しい顔の女性を眼前にして驚嘆している。それも、少々あきれ加減で。「羅」は「うすもの」と読む。「俳句」(2005年7月号)所載。(清水哲男)




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