六月も今日でおしまい。看板の「朝食シリーズ」も終了です。最後にデザートをどうぞ。




2005ソスN6ソスソス30ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 3062005

 三つ矢サイダーきやうだい毀れやすきかな

                           奥田筆子

語は「サイダー」で夏。「サイダー」といえば「三つ矢」。正確には「三ツ矢」だが、かれこれ120年の歴史を持つ。昔は現在のように一人用の容器ではなく、大きな瓶に入っていたので、家族で注ぎ分けて飲んだものだ。作者はいま、独りで飲んでいる。飲みながら、サイダーを好んだ子供の頃を思い出している。そして、あんなにも仲良く分け合って飲んだ「きやうだい(兄弟姉妹)」とも、すっかり疎遠になってしまっていることを、何か夢のように感じているのだ。むろん寂しさもあるが、親密な関係があまりにもあっけなく「毀れ(こわれ)」てしまったことへの不思議の気持ちのほうが強いのではあるまいか。日盛りのなかのサイダー。いわば向日的な明るい飲み物であるだけに、「きやうだい」間にどんな事情があったにせよ、疎遠になってからの来し方が信じられないほどの昏さを伴って思い返されるのである。別の作者で、もう一句。「サイダーに咽せて疎遠になる兆し」(平山道子)。相手との会話が、いまひとつ弾まないのだろう。咽(む)せたくて咽せたわけではなかろうが、しかし心のどこかでは、気まずい雰囲気をとりつくろうために咽せたような気もしている。そんな作者に、相手は「だいじょうぶ?」と声をかけるでもなく……。相手は同性だと見た。これまた明るい飲み物を媒介にして、昏さを無理無く引き出している。以上、サイダー受難の二句であります。現代俳句協会編『現代俳句歳時記・夏』(2004)所載。(清水哲男)


June 2962005

 夏座敷対角線に妻のゐて

                           岡本久一

語は「夏座敷」。元来の意味は襖、障子などを外して、風通しをよくし、夏向きの家具、調度を置いた座敷のことだ。現代の家では、窓を広く開け放ったりして、風の通りをよくした部屋くらいの感じが適当だろう。実際にはさして涼しくなくても、外気との触れ合いによる開放感から涼味を覚えるのである。掲句はそんな座敷か部屋で、妻と二人でくつろいでいるところか。一つの机を挟んで、妻と作者は対角線上にいる。このときに二人が最も近くなる場所は隣り同士であり、次が正面に向き合う位置であり、いちばん遠いのが対角線上だ。つまり、二人はいちばん遠いところに坐っているわけだが、べつに互いが意識してそうしているのではない。長年の結婚生活のなかで、ごく自然にそうなってきたのだ。句の「対角線」は、だから二次元的な距離の遠さを表すよりも、むしろ三次元的な二人での生活時間の長さを言っている。隣り同士から対角線上まで過ごしてきた時間……。これを再び二次元化すると、思えば遠くまで来たものだという感慨につながる。窓からの風も心地よい。俗に「遠くて近きは男女の仲」と言うけれど、ならば「近くて遠きが夫婦の仲」なのか。なあんて、混ぜっ返しては作者に失礼だ。へぇ、お後がよろしいようで。有楽町メセナ句会合同句集『毬音』(2005年5月)所載。(清水哲男)


June 2862005

 あなどりし四百四病の脚気病む

                           松本たかし

語は「脚気(かっけ)」で夏。ビタミンB1の不足が原因で起きる病気で、B1の消費量が多い夏場によく発症したので夏の季語とされた。「赤痢(せきり)」などとともに季語として残っているのは、よほどこの病気が蔓延したことのある証拠だ。もちろん、現在でも発症者はいる。「四百四病(しひゃくしびょう)」は疾病の総称。仏説に、人身は地・水・火・風の四大(しだい)から成り、四大調和を得なければ、地大から黄病、水大から痰病、火大から熱病、風大から風病が各101、計404病起るという。[広辞苑第五版]。要するに人間がかかりやすい病気ということだろうが、作者と同様、おおかたの人はそうしたポピュラーな病気を軽く考えてあなどっている。かかるわけはないし、仮にかかったとしても軽微ですむだろうくらいに思っているのだ。それも一理あるのであって、四百四病すべてに予防策をこうじていては身が持たない。真面目に取り組めば、そのことだけで神経衰弱にでもなってしまいそうだ。だから、あなどることもまた、生きていく上での知恵なのである。しかしそんな理屈はともあれ、実際に発症してしまうと、あわてふためく。何かの間違いであってくれればと、自分の油断に後悔する。掲句は、そんな自分のあわてふためきぶりに苦笑している図だ。めったには死に至らぬ病いだという、もう一つの「あなどり」のせいでどこか安心しているのでもある。『新歳時記・夏』(1989・河出文庫)所載。(清水哲男)




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