みなさん、朝食は。私はトースト。よろしければ、今朝のメニューを一行掲示板に……。




2005ソスN6ソスソス16ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

June 1662005

 堀こえてにはとりの声梅雨小止む

                           星野恒彦

陶しい梅雨の長雨が、どういう加減からか、すうっと降り止んだ。心無しか、空も明るくなっているようだ。こういうときには単純に心が明るくなってくるものだが、その明るい心が、堀の向こう側で鳴いている「にはとりの声」を捉えたのである。「声」はいわゆる「コケコッコー」の鶏鳴ではなく、「ククククッ」といったような雌鳥のかすかな鳴き声だろう。このときに限らず、その声はいつでも聞こえているはずなのだが、普段はほとんど気がつかない。すなわち、私たちの耳はそのときの心持ちによって、聞いたり聞かなかったりしているわけだ。長雨の小休止でほっとした耳に、同じように鬱陶しさを耐えていたのであろう「にはとり」の洩らした鳴き声の、何と明るく心地よいことか。そのかすかな声には、同じ生き物として通い合う心が宿っているかのようである。句集によれば、作句は1985年(昭和六十年)だ。そんなに昔の句ではない。となれば、この声は遠くの大きな養鶏場から聞こえてきたとも解釈できるが、しかし「にはとり」の表記の意図は、やはり多くても二三羽の鶏を指しているのだと思われる。小さな農家の小さな鶏小屋。そんな懐かしいような風景が堀の向こう側にあってこそ、この句は生きてくる。たとえ想像句であったとしても、そんな現実の世界のなかで味わいたいものだ。『連凧』(1986)所収。(清水哲男)


June 1562005

 句集読むはづかしさ弱冷房車

                           松村武雄

語は「冷房」で夏。電車のなかで、どんな読み物を読もうともむろん自由だ。だが、電車のなかも一つの世間であるから、車内には車内なりの世間体というものがあるし、やはり多少は気になる。新聞や週刊誌でも開くページが気になるし、文庫本でもあまりくだけた内容のものは避けたりする。つまり、車内の多くの人は世間を意識して読み物なりページなりを広げているのだ。だから、作者の言うように「句集」を読むのはちと恥ずかしい。なんとなく、世間の目がいぶかしげにこちらを見ているような気がするからだ。詩集や歌集でも同じことで、実際私にも経験があるけれど、その種の本を広げた途端に、世間から孤立した感じがしてしまう。ひとりで勝手に「はづかしさ」を覚えてしまうのである。しかも作者が乗っているのは「弱冷房車」だ。よほど無頓着な人は別にして、冷房車を避けて数の少ない弱冷房車に乗るのは意識的である。その車両に乗りたくて、わざわざ選んで乗るわけだ。ということは、「弱」の乗客の間には、たまたま乗り合わせたとはいえ、一般の冷房車の雑多な客よりもいわば同類としての意識が高い。実際に他の客の意識がどうであれ、選んで乗った当人にはそう感じられる空間である。したがって、弱冷房車の世間は、そうでない車両のそれよりも濃密なのであって、そこで奇異に思われるかもしれない「句集」をあえて開いたのだから、これはもう「はづかしさ」と言うしかないのであった。とまあ、車中の読書にもいろいろと気を使うものでありマス。『雪間以後』(2003)所収。(清水哲男)


June 1462005

 目まといの如く前行く日傘かな

                           日高二男

語は「日傘」で夏。「目まとい(目纏い)」は、夏の野道などで目の前を飛び交いつきまとうユスリカなどの小虫を言い、これも夏の季語だ。「まくなぎ」とも。人同士がやっとすれ違えるほどの細い道を、作者は少し急ぎ足で歩いているのだろう。ところが前を行く「日傘」の女性が、右に左に揺れるように歩いていて、なかなか追い越せない。その彼女の様子がまるで「目まとい」のようだなと、ふと思いつき、苦笑している図だ。我が家の近所の歩道もかなり細いので、こういうことがまま起きる。よほど急いでいるときには「すみません」と声をかけざるを得ないけれど、たいていの場合には仕方なく二三歩離れてついていく。そのうちに気づいてくれるだろうと思い、むろん気づいてくれる人のほうが多いのだが、なかにはまったく背後の気配を感じない人もいたりして、苦笑が苛立ちになることもある。おそらく何か考え事をしているのか、一種の放心状態にあるのか、べつに鈍感というわけではないのだろうが、天下の往来にはいろいろな人が歩いているものだ。それにつけても細い道では、歩行者ばかりではなく自転車の人も加わるので、苛立ちどころか物理的な危険を感じることもある。夜中に背後から無灯火ですうっとやってきて、ベルも鳴らさずものも言わずにすり抜けていく奴がいる。先方にはこちらが「目まとい」なのだろうが、それとこれとは話が別だ。『四季吟詠句集19』(2005・東京四季出版)所載。(清水哲男)




『旅』や『風』などのキーワードからも検索できます