母の日。寺山修司「時には母のない子のように」が新人歌手によって蘇るのだそうです。




2005ソスN5ソスソス8ソスソスソスソス句(前日までの二句を含む)

May 0852005

 旧姓で呼ばるる目覚め明易き

                           宮城雅子

語は「明易(あけやす)し」で夏、「短夜(みじかよ)」に分類。夜明けが早くなってきた。最近では、4時を少し過ぎると明るくなってくるので、早起きにはありがたい。そんなある朝、作者は「旧姓」で呼ばれて目が覚めた。夢の中で呼ばれたとも取れるが、私は現実に呼ばれたと取った。一泊のクラス会か何かで、この日は早立ちだったのだろう。そろそろ起きなければと呼びかけた人は、昔の友人だから、何のためらいもなく自然に旧姓で声をかけたのだ。が、呼びかけられたほうは、眠さも手伝って、一瞬意識が混乱したにちがいない。既に夜がしらじらと明け初めているなかで、だんだん覚醒してくると、そこにはかつての友人の微笑を浮かべた顔があった。時間の歯車が懐かしい少女時代に戻してくれたような気がして、まだ眠さは残っているものの、まったく不快ではない。結婚によって、姓が変わった女性ならではの世界だ。したがって、多くの男には体験できないわけだが、急に旧姓で呼びかけられると、どんな気持ちがするものなのだろうか。男だと、それこそクラス会で、いきなり昔のあだ名で呼ばれたりすることがあるけれど、ちょっとあれに似ているのかもしれない。似てはいるのだろうが、しかしもっとインパクトは強そうだ。などと、あれこれ想像を膨らませてくれる一句だった。『薔薇園』(2004)所収。(清水哲男)


May 0752005

 植うる田を明けの駅員見つつゆく

                           剣持洋子

の句を載せている歳時記では、田植えの終わった「植田」の項に分類しているが、間違いだと思う。「植うる」とは「植えられつつある」の意だから、当歳時記では「田植」に分類しておく。季節は夏。夜勤「明け」の駅員が、帰宅の道すがら、田植えの模様を目に入れているという情景だ。上天気で、日がまぶしい。その日を照り返している田の水は、もっとまぶしい。徹夜明けのくたびれた目には、なかなかに辛いものがある。この駅員の実家は、おそらく農家なのだろう。疲れた身体を休めるために、これから戻って一眠りしなければならないのだが、みなが田圃で働いているときに寝ることには、忸怩たる気持ちもある。いかに自分が徹夜で働いていたとはいえ、田園地帯に暮らしている以上は、徹夜仕事すら言い訳めいてくるのだからだ。もしかすると、田植えが行われているのは、我が家の田圃なのかもしれない。ならば後ろめたい気持ちはなおさらである。戦後の農家は、現金収入を得るために、町場に働きに出る男たちを輩出した。余儀なく、いわゆる「三ちゃん農業」に追い込まれていったのだった。「とうちゃん」や「にいちゃん」はサラリーマンになり、残った「かあちゃん、じいちゃん、ばあちゃん」が野良仕事をするわけだ。そんな背景を思って掲句を読むと、一見さらりとした情景のなかに、複雑な人間心理が錯綜していて、読後に重いものが残る。『新版・俳句歳時記』(2001・雄山閣出版)所載。(清水哲男)


May 0652005

 十七歳跨いで行けり野の菫

                           清水径子

語は「菫(すみれ)」で春。ハイキングの途次だろうか。可憐に咲いている「野の菫」を、まことに無造作に「十七歳」が跨(また)いで行ったというのである。「十七歳」とは、微妙な年齢だ。十六歳とも違うし、十八歳とも違う。もう子供だとは言えないが、さりとて大人と言うにはまだ幼いところが残っている。そんな宙ぶらりんな年齢にとって、例外はあるにしても、野に咲く花などに立ち止まるような興味はないのが普通だろう。万事において、好奇心はもっと刺激的なものへ、もっと華麗なものへと向けられている。掲句は、十七歳のそのようなありようを、菫をぱっと跨いで行った一つの行為を描くことで、見事に象徴化してみせた作品だ。未熟で粗野な美意識と、それを補って余りある若い身体の柔軟性とが、一つに混然と溶け合っている年齢の不思議を、むしろ作者は羨望の念を覚えながら見たのだと思われる。ところで、この十七歳は男だろうか、それとも女だろうか。どちらでもよいようなものだけれど、私は直感的に女だと読んでいた。男だとすると、情景が平凡で散文的に過ぎると感じたからだ。女だとしたほうが、跨ぐ行為にハッとさせられるし、しなやかな肢体を思わせられるので、情景にちょっぴり艶が出る。それから、もしかするとこの「十七歳」はかつての作者自身だったのかもしれないと、思いが膨らんだのでもあった。『清水径子全句集』(2005)。(清水哲男)




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